桐の花(北原白秋)のあらすじ・登場人物
桐の花とカステラの時季となつた
- 文字数
- 43,017字
- 読了目安
- 約1時間26分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
北原白秋の第一歌集。「春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕」など、口語的な感覚と近代的な憂愁をたたえた歌が並び、明治末から大正の短歌に新しい風をもたらした。巻頭に置かれた評論「桐の花とカステラ」は、白秋の感覚論として名高い。人妻との恋愛事件で拘置された「囚人 Tonka John」の傷が全編に影を落としている。
あらすじ
「桐の花とカステラの時季となつた」——巻頭に置かれた小評論「桐の花とカステラ」は、そんな一行で始まる。桐の花が咲くと冷たい吹笛の哀音を思い出す。五月の西洋料理店の階上、薄いフラスコの水にちらつく桐の花の淡紫色と、カステラの暖かみのある黄色。そのばさばさして手ざわりの渋いカステラが何より好ましい——粉っぽい新しさ、タッチのフレッシュな印象が、近代人の繊細な感覚に快く響くのだ、と白秋は説く。「短歌は一箇の小さい緑の古宝玉である、古い悲哀時代のセンチメントの精である」。歌集本体には、こうした感覚の詩人にしか書けない歌が並ぶ。都会の憂愁とデカダンス、桐の花や夏の草の匂い、恋と罪の意識。「哀傷篇」と題された一連は、人妻との恋愛が姦通罪として告訴され、市ヶ谷未決監に拘置された事件の傷を直接に反映している。跋文で白秋は、「わが世は凡て汚されたり、わが夢は凡て滅びむとす。わがわかき日も哀楽も遂には皐月の薄紫の桐の花の如くにや消えはつべき」と記し、「囚人 Tonka John は既に傷つきたる心の旅びとなり」と自らを呼んだ。「この集世に出づる日ありとも何にかせむ。慰めがたき巡礼のそのゆく道のはるけさよ」——一九一二年初冬の日付とともに、そう結ばれている。
冒頭部(原文より)
わがこの哀れなる抒情歌集を誰にかは献げむ はらからよわが友よ忘れえぬ人びとよ 凡てこれわかき日のいとほしき夢のきれはし Tonka John 桐の花とカステラ 桐の花とカステラの時季となつた。私は何時も桐の花が咲くと冷めたい吹笛の哀音を思ひ出す。
「桐の花」北原白秋(青空文庫)
末尾部(原文より)
わが世は凡て汚されたり、わが夢は凡て滅びむとす。わがわかき日も哀楽も遂には皐月の薄紫の桐の花の如くにや消えはつべき。 わがかなしみを知る人にわれはただわが温情のかぎりを投げかけむかな、囚人 Tonka John は既に傷つきたる心の旅びとなり。 この集世に出づる日ありとも何にかせむ。慰めがたき巡礼のそのゆく道のはるけさよ。
「桐の花」北原白秋(青空文庫)
名文
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕
第一歌集「桐の花」の巻頭近くに置かれた一首。「な鳴きそ」の古い調べと夕日の赤が、青春の哀感を際立たせる。
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
歌集『桐の花』の一首。恋人を帰す朝の敷石に降る雪へ、林檎の香のように降れと呼びかける。官能と清新さが同居する、白秋の短歌の代表作。
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