久坂葉子の誕生と死亡(久坂葉子)のあらすじ・登場人物
久坂葉子を葬ろう
- 文字数
- 7,580字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 兵庫県
この作品について
「久坂葉子」という筆名がこの世に生まれてから葬られるまでの三年半を、当人が書き残した異様な自伝。書かれた翌月、二十一歳の作者は阪急六甲駅で自ら命を絶った。筆名という「もう一人の自分」を葬る儀式として綴られたこの文章は、そのまま作者自身への弔文となっている。
あらすじ
「今からざっと三年半前、一九四九年の夏前に、久坂葉子は、この世に存在しはじめた」——書き出しの一行から、この文章は奇妙な三人称で自らを語る。人間の誕生は偶然に無意識のうちに行われるが、この名前は自分の意識的な行為によって名づけられ、誕生を強いられたのだ、と。雨の日、女学校時代の友人に連れられて島尾敏雄の六甲の家を訪ねたこと。父から俳号をもらって句会に出たこと。本名で詩を投稿し、雑誌が潰れたり嫌になったりして原稿が山積みになっていた三か月。そして同人誌に加わり、「久坂葉子」の名で作品を発表しはじめてからの日々が、次々にふり返られる。芥川賞候補になったこと、周囲の期待と好奇、酒と恋、そして自分でも制御できない衝動。「久坂葉子」という名は、いつしか本人の手を離れて一人歩きを始めていた。やがて作者は書けなくなる。書きかけの原稿をまるめた経験のなかった自分が、五日つづけて書けない。何故苦しんでまで原稿用紙に字をうずめねばならないのか、と頭が手に問いかけてくる。そして決心する。「久坂葉子を葬ろう」。白木の箱をつくり、白布で覆い、その名のあるすべての紙片を詰めこんで焼き、線香を立て、ブラームスの四番をかけて、二度と蘇生させないようにしよう——三年半の久坂葉子の生命であった。死亡通知をこしらえ、葬式をして、弔文を読もう。「お前は、ほんとに馬鹿な奴だ、と」。
登場人物
- 私 「久坂葉子」という筆名を持つ作者
- 島尾敏雄 作者を同人誌へ導いた作家
冒頭部(原文より)
今からざっと三年半前、一九四九年の夏前に、久坂葉子は、この世に存在しはじめた。人間の誕生は、偶然に無意識のうちに、それでいておごそかに行われるものだと思う。しかし、この名前は、自分の意識的な行為によって名附けられ、誕生を強いたのであった。
「久坂葉子の誕生と死亡」久坂葉子(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は、決心した。久坂葉子を葬ろう。私は、小さな白木の箱をつくり、白布で掩い、勿論その中は久坂葉子の名前のあるすべての紙片をつめこむのだ。そして、焼こう。線香をたてよう。ブラームスの四番をかけて、もう二度と蘇生させないようにしよう、と決心したのだ。三年半の久坂葉子の生命であった。……私は久坂葉子の死亡通知をこしらえ、その次に葬式をするのだ。弔文をよもう。 お前は、ほんとに馬鹿な奴だ、と。
「久坂葉子の誕生と死亡」久坂葉子(青空文庫)
原文を読む
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