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入梅(久坂葉子)のあらすじ・登場人物

じいやの恋と梅雨のにおい

  • 家族
  • 心理

久坂葉子 1950年(昭和25年)8月

文字数
9,935字
読了目安
約20分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 兵庫県

この作品について

1950年(昭和25年)八月作。シベリアで夫を失い、幼い息子と老僕と暮らす未亡人の、梅雨入りまでのひと月を描いた短編。老いた下男と若い女中の色恋という滑稽にも見える騒動を通して、語り手は自分の嫉妬とも憐れみともつかぬ感情に気づいてゆく。十九歳の作者が、自分とはまるで年齢も境遇も違う女の孤独をここまで書けたことに驚かされる一編。

あらすじ

毛虫を突きころして庭を掃いていた「わたし」は、燃える紙屑を見ながら夫のことを思い出す。戦争に征って四年、シベリアで病死したと知らされたのは去年の秋だった。大地主の一人息子だった夫の地所も別荘も邸も失われ、いまは郊外の借家で、六つの息子行雄と、幼い頃から仕えてきた老僕の作衛と三人で暮らしている。絵更紗の内職が忙しくなり、去年の暮に若い女中を雇った——それが、作衛の亡妻と同じ名の「おはる」だった。

妻を亡くして沈んでいた作衛は、いつしか年端も離れたおはるをかわいがるようになる。夜の按摩の声、二人が同時に顔を出した夕方の気配。「わたし」は憤りながら、その憤りが責任感なのか、それとも自分自身の孤独から来る嫉妬なのか判じかねる。やがておはるは縁談を得て嫁いでゆくが、作衛は納得しない。新家庭に押しかけ、おはるは離縁されて戻ってくる。彼女はけろりとして「じいさんをどこかへやってほしい」と言う。

「わたし」は決心して、作衛に故郷へ帰れと告げる。翌朝、作衛の姿はなく、坊ちゃま宛の紙きれと、働着の絣を帆にした木の船が残されていた。空がにわかに曇って雨が落ちる。梅雨に入ったのだ。

登場人物

冒頭部(原文より)

 わたしは庭に降りて毛虫を探し、竹棒でそれをつきころしていた。それは丁度、若葉が風にゆらいでいきいきとしており、モスの着物が少しあつすぎる入梅前のこと、素足にエナメル草履の古いのをつっかけて庭掃除に余念がなかった。毛虫は、ほんの二坪位の庭より十匹余りも出て来た。石のくつぬぎに行儀よく並べた死骸を又丁寧に一匹ずつ火の中に放りこもうとして紙屑を燃やした。

「入梅」久坂葉子(青空文庫)

末尾部(原文より)

 作衛は今頃、汽車にのって入歯をかたかたさせながらどんな気持だろうか、だが、そんなことはどうでもよかった。 「そうら、雨よ。御家へ入りましょう」  行雄をかかえて座敷に入った。二三日つづきそうな雨だった。植木が、つやつやした葉をして、その奥から沈丁花の香りが、かすかに流れて来た。

「入梅」久坂葉子(青空文庫)

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