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女(久坂葉子)のあらすじ・登場人物

五通の手紙を配る女

  • 幻想
  • 心理

久坂葉子 1952年(昭和27年)

文字数
3,327字
読了目安
約7分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1952年(昭和27年)作、久坂葉子の没後に発掘された掌編。「阿難」と名のる女が五通の同じ手紙を配って歩く一日を、感情の説明を一切排した短い文で追う。何が起きているのかは最後の数行まで明かされず、明かされてもなお謎が残る。同じ年に書かれた長編「華々しき瞬間」の主人公も「阿難」と呼ばれており、作者が最期の年に取り憑かれていた自画像がここにも姿を見せている。

あらすじ

女は五通の手紙を書き、白い角封筒におさめた。内容はことごとく同じである。封をし、裏に自分の名を書き、しばらく思案してから、性急に五種類の宛名を書きはじめた。

春の朝、黒地に寿ちらしのお召しを着た女は十時に家を出る。川のほとりの家では女中に「阿難」とだけ名のって立ち去り、一通目はその門前のポストへ。貧民街のバラック建てでは格子戸に封筒をはさませ、骨董商では支那の小刀を買って白髪の客への言伝てを託す。小学校では、自分が保証人となって学資を出している男の子の担任に、母親宛の手紙をあずける。美容院では男爵夫人への一通を女の子に手渡す。

暮れかけた街を抜け、女は黒い門をくぐる。縁側にいたのは夫だった。帰って来てくれたのかと問う声に、女は「でもすぐに又行ってしまいます」と答え、笹むらをまたいで出てゆく。朝出た家に戻ると、自分の部屋の障子は閉ざされ、中から「お待ち」と声がした。女は障子越しに一日の報告をする——叔母、狐のような女、自称芸術愛好家、自分が産んで手放した子、男爵夫人、そして最後に訪ねた夫のこと。「はなれなければ、私の感情が、あの人を殺してしまうでしょう」。障子をあけると、中には誰もいなかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 女は五通の手紙を書き、それ/″\白い角封筒に丁寧におさめた。内容は悉く同じものであった。封をしてから、女は裏に自分の名前を書いた。それから五つの表書をしばらく思案していたが、やがて、ペンの音をさせて性急に五種類の名前を書きはじめた。  夕闇が女の部屋にある水仙の白さを浮きたたせた。女は黒革のハンドバッグに五通の手紙をしまいこんだ。  春の朝は、かんばしいかおりと明るい色彩をたずさえて女の寝床近くへ訪れた。

「女」久坂葉子(青空文庫)

末尾部(原文より)

 女は、それからまもなく、剃刀で命を絶った。  四人の女と一人の男が手紙をよんだ。 「わたくしは阿難と申す女でございます。あなたの最愛の人を奪ったのでございます。わたくしは、その人を夫と呼んで十年も同棲いたしておりました。今日まで。しかし、わたくしは、悪魔の招きにさそわれました。わたくしは、悪魔にかしずくことを約束いたしました。夫をおかえしいたします」  その男は誰のところへもゆかなかった。そして悪魔の招きに応じたのであった。

「女」久坂葉子(青空文庫)

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