フォスフォレッセンス(太宰治)のあらすじ・登場人物
夢の中にいる妻
- 幻想
- 心理
- 文字数
- 4,263字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
夢と現実の境が溶け合う晩年の掌編。1947年(昭和22年)6月、雑誌「日本小説」に発表された。人は現実の世界と、眠りのなかの夢の世界と、二つの世界で生きている——そう語る「私」には、この世のどこにもいない妻がいる。夢で交わした会話と、現実で交わした会話が地続きになってゆく。題名は燐光を意味する語である。
あらすじ
人はこの世の現実と、眠りのなかの夢と、二つの世界で生きている。「私」はそう信じている。夢の中には、この世のどこにもいない親友がいて、妻がいて、言葉も肉体を持って生きているのだ。あの湖のほとりの草原で、その妻は「あなたは、正義ということをご存じ?」と問い、私は答えられずに涙を流す。現実で別れ、夢でまた逢い、そこでまた別れる。ある日、締切に追われた私は、若い編輯者を連れて、いつも逢っていたそのひとの家をはじめて訪ねた。居間の正面の壁には若い男の写真が飾られている。「墓場の無い人って、哀しいわね」——夢で聞いたその言葉を、私はとっさに了解した。
登場人物
- 私 現実と夢の二つの世界で生きていると信じる作家
- そのひと 夢のなかで私の妻として現れる女性。現実では別の顔を持つ
- 若い編輯者 締切に追われた私に付き添う雑誌の編集者
冒頭部(原文より)
「まあ、綺麗。お前、そのまま王子様のところへでもお嫁に行けるよ。」 「あら、お母さん、それは夢よ。」 この二人の会話に於いて、一体どちらが夢想家で、どちらが現実家なのであろうか。 母は、言葉の上ではまるで夢想家のようなあんばいだし、娘はその夢想を破るような所謂現実家みたいなことを言っている。
「フォスフォレッセンス」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
私たちは、そのひとの居間にとおされた。正面の壁に、若い男の写真が飾られていた。墓場の無い人って、哀しいわね。私はとっさに了解した。 「ご主人ですね?」 「ええ、まだ南方からお帰りになりませんの。もう七年、ご消息が無いんですって。」 そのひとに、そんなご主人があるとは、実は、私もそのときはじめて知ったのである。 「綺麗な花だなあ。」 と若い編輯者はその写真の下の机に飾られてある一束の花を見て、そう言った。 「なんて花でしょう。」 と彼にたずねられて、私はすらすらと答えた。 「Phosphorescence」
「フォスフォレッセンス」太宰治(青空文庫)
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