牛人(中島敦)のあらすじ・登場人物
夢に見た黒い男の子
- 幻想
- 心理
- 文字数
- 4,751字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
中島敦が1942年(昭和17年)、「政界往来」に発表した短編小説。「春秋左氏伝」に取材した中国物の一編である。魯の名門・叔孫豹が、若き日に旅先で一夜を共にした女との間にもうけた子・豎牛(じゅぎゅう)。夢のなかで自分を助けてくれた牛のような黒い男に瓜二つのこの子を、叔孫は召し使うことになる。豎牛という人物をめぐる宿命の恐ろしさを、中島が漢文調の格調高い文体で描いた一編である。
あらすじ
魯の名門の生まれである叔孫豹は、若き日に乱を避けて斉へ逃れる途中、庚宗の地で一人の女と契り、一夜を共にした。斉で身を立て、正妻を娶って二児をもうけた叔孫は、路傍のかりそめの契りなどすっかり忘れ果てていた。そのころ叔孫は、不吉な夢を見る。天井が徐々に下降し、堪えがたい重みに押しつぶされそうになったとき、牛によく似た、色の黒い醜い男が現れて、その重みを支えてくれるのだった。やがて、かつて庚宗の女が産んだという子が、叔孫のもとへ訪ねてくる。その子の顔は、あの夢のなかの牛のような男に生き写しだった。叔孫はこの子を豎牛と名づけ、身近に召し使う。だが豎牛は、その底知れぬ奸智をふるって、叔孫の跡継ぎたちを次々と陥れ、主家を意のままに操っていく。老いて病に臥した叔孫は、豎牛によって食を断たれ、外部から隔てられて、飢えと孤独のうちに死へと追いつめられていく。夢のなかでかつて自分を救ってくれたはずの牛男は、いまや冷酷に見下ろすばかり。世界の底知れぬ悪意を前に、叔孫はもはや刃向かう気力も失う。三日の後、魯の名大夫・叔孫豹は餓えて死んだ。逃れがたい宿命の恐ろしさを、中島が漢文調の格調で描いた中国物の一編である。
登場人物
- 叔孫豹 魯の名門の大夫。若き日の一夜の契りでもうけた子・豎牛を召し使うが、その奸智によって餓死に追いつめられる
- 豎牛 叔孫が旅先の女に産ませた子。夢に現れた牛のような男に生き写しで、奸智をふるって主家を操り、叔孫を死へと追いやる
冒頭部(原文より)
魯の叔孫豹がまだ若かった頃、乱を避けて一時斉に奔ったことがある。途に魯の北境庚宗の地で一美婦を見た。俄かに懇ろとなり、一夜を共に過して、さて翌朝別れて斉に入った。斉に落着き大夫国氏の娘を娶って二児を挙げるに及んで、かつての路傍一夜の契などはすっかり忘れ果ててしまった。
「牛人」中島敦(青空文庫)
末尾部(原文より)
もはや先刻までの怒は運命的な畏怖感に圧倒されてしまった。今はこの男に刃向おうとする気力も失せたのである。 三日の後、魯の名大夫、叔孫豹は餓えて死んだ。
「牛人」中島敦(青空文庫)
原文を読む
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