閑山(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
狸が悟りを求めた寺
- 幻想
- 心理
- 文字数
- 6,934字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 新潟県
この作品について
1938年(昭和13年)、雑誌「文体」に発表された坂口安吾の短編。越後魚沼の閑山寺を舞台に、徳の高い老和尚に仕えるようになった化け狸・団九郎の一生を、昔語りの調子で綴る。禅の修行に打ち込む狸の真摯さと、おかしみを誘う放屁の挿話とが隣り合い、聖と俗、悟りと執着のあわいを笑いと哀しみで描く。終わりには「花」の字にまつわる余韻が残る。
あらすじ
越後魚沼の閑山寺に、六袋和尚という徳の高い老僧がいた。初冬の夜、窓から差し入れられた毛だらけの手の掌に、和尚が朱筆で「花」の字を書きつけると、明け方、一匹の狸が文字の重さで帰れないと泣いて頼みにくる。和尚が硯の水で洗い落としてやってから、狸は毎夜木草を届けるようになり、やがて小坊主に化けて仕える。団九郎と呼ばれるその狸は、経を覚え、座禅に加わり、和尚にならって彫像の三昧も知った。和尚の死後も寺を去らなかったが、後住の弁兆は酒食にしか関心のない坊主で、俗臭に耐えかねた団九郎は雲水に姿を変えて山門をくぐる。やがて彼は人里離れた山に庵を結び、禅定三昧に入る。冬、旅芝居の一座が病人を残していくが、祈祷を乞われても和尚は受けつけず、病人の死を見届けると一行を急かして追い払う。立ち去る人々の背後で、山じゅうに響くほどの大きな放屁の音が湧き起こった。のちに庵を訪ねた旅人は、無数の小坊主が屁をこいて騒ぐ広間をのぞき見てしまい、笑い声をもらした瞬間、毛だらけの脚に組み伏せられる。村人が庵を取り壊すと、仏壇の下から獣骨が見つかり、片掌には朱の「花」の字がしみついていた。村人は塚を立て、桜を植えたという。
登場人物
- 団九郎 和尚に仕える化け狸。経を覚え、座禅や彫像にも打ち込む
- 六袋和尚 閑山寺の徳の高い老僧
- 弁兆 後住の酒好きの坊主
冒頭部(原文より)
昔、越後之国魚沼の僻地に、閑山寺の六袋和尚といって近隣に徳望高い老僧があった。 初冬の深更のこと、雪明りを愛ずるまま写経に時を忘れていると、窓外から毛の生えた手を差しのべて顔をなでるものがあった。和尚は朱筆に持ちかえて、その掌に花の字を書きつけ、あとは余念もなく再び写経に没頭した。 明方ちかく、窓外から、頻りに泣き叫ぶ声が起った。やがて先ほどの手を再び差しのべる者があり、声が言うには「和尚さま。誤って有徳の沙門を嬲り、お書きなさいました文字の重さに、帰る道が歩けませぬ。不愍と思い、文字を落して下さりませ」見れば一匹の狸であった。
「閑山」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
村人が寄り集い、草庵を取毀したところ、仏壇の下に当った縁下に、大きな獣骨を発見した。片てのひらの白骨に朱の花の字がしみついていた。 村人は憐んで塚を立て、周囲に数多の桜樹を植えた。これを花塚と称んだそうだが、春めぐり桜に花の開く毎に、塚のまわりの山々のみは嵐をよび、終夜悲しげに風声が叫びかわして、一夜に花を散らしたということである。この花塚がどのあたりやら、今は古老も知らないそうな。
「閑山」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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