黄いろのトマト(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
黄いろのトマトを、金貨だと信じて
- 幻想
- 心理
- 文字数
- 7,957字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
博物館のガラス戸棚の剥製の蜂雀が語る、ペムペルとネリという兄妹の話。畑で育てた黄色いトマトを「金貨」だと信じてサーカスの木戸口に差し出した二人が受けた仕打ちを、宮沢賢治は静かな筆で描く。子どもの純真さが世間の物差しに傷つけられる瞬間を、これほど痛切に書いた童話は少ない。
あらすじ
私の町の博物館の大きなガラス戸棚には、四疋の蜂雀の剥製がいる。小さいころのある朝、そのうちのいちばん上の枝にとまった一羽が、銀の針のような細い声で私に話しかけた。「お早う。ペムペルという子はほんとうにいい子だったのにかあいそうなことをした」——鞄を床におろしてその上に座り、私は蜂雀の話を聞くことにする。ペムペルとネリという兄妹は、両親の働くそばで毎日遊んでいた。やがて二人だけになり、林の中の家で、畑を耕して暮らすようになる。ある年、二人が育てたトマトのなかに、まっ黄色に熟れて宝石のように光るものがあった。二人はそれを大切にしまいこむ。あるとき町にサーカスがやってくる。木戸口にはお金が要ると聞いた二人は、あの黄いろのトマトこそ黄金だと信じ、両手にいっぱい抱えて出かけた。差し出したトマトを見て、木戸番の男は「なんだこの餓鬼め、人をばかにするな」と怒鳴りつけ、二人を追い払ってしまう。ネリは泣き出し、ペムペルも俄かに高く泣き出した。「ああいうかなしいことを、お前はきっと知らないよ」。二人はだまって、ときどきしゃくりあげながら、来た道を戻ってゆく。ペムペルは握りこぶしを握り、ネリは時々唾をのみながら、まっ黒な小山を越えて家に帰ったのだ——そう語り終えると、蜂雀の嘴はまた閉じてしまった。私は廊下へ出て、あまりの明るさと兄妹のかわいそうさに、涙をぼろぼろこぼした。
登場人物
- 蜂雀 博物館の剥製。兄妹の話を語る
- ペムペル 黄いろのトマトを育てた兄
- ネリ その妹
冒頭部(原文より)
私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚には、剥製ですが、四疋の蜂雀がいます。 生きてたときはミィミィとなき蝶のように花の蜜をたべるあの小さなかあいらしい蜂雀です。わたくしはその四疋の中でいちばん上の枝にとまって、羽を両方ひろげかけ、まっ青なそらにいまにもとび立ちそうなのを、ことにすきでした。
「黄いろのトマト」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
私も大へんかなしくなって 「じゃ蜂雀。さようなら。僕又来るよ。けれどお前が何か云いたかったら云ってお呉れ。さよなら、ありがとうよ。蜂雀、ありがとうよ。」 と云いながら、鞄をそっと取りあげて、その茶いろガラスのかけらの中のような室を、しずかに廊下へ出たのです。そして俄かにあんまりの明るさと、あの兄妹のかあいそうなのとに、眼がチクチクッと痛み、涙がぼろぼろこぼれたのです。
「黄いろのトマト」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
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