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縷紅新草(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

赤蜻蛉が舞う墓地の秋

  • 幻想
  • 心理

泉鏡花 1939年(昭和14年)7月 「中央公論」

文字数
24,399字
読了目安
約49分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 石川県

この作品について

鏡花が世を去る二か月前に発表した絶筆。1939年(昭和14年)7月、雑誌「中央公論」に掲載された。故郷の城下町へ墓参りに帰った辻町糸七が、案内の若い妻女お米と語り合ううち、三十年前に堀へ身を投げた娘の記憶と、刺繍の名手だった千五百石の女・初路の悲運とが重なっていく。二つ連なって町を覆う赤蜻蛉の群れが、この世ならぬ美しさで結末を照らす。

あらすじ

秋の午後、辻町糸七は昼の提灯を提げて、城下を見晴らす燈籠寺の磴を上っていく。連れは、一昨年世を去った従姉お京の娘で、土地の老舗の塗師屋の妻女となったお米である。若かった日、花盛りの真夜中に城の堀端で身を投げた娘を見たこと、その死骸が翌朝この寺の檀家へ引き取られたこと——辻町はぽつぽつと昔語りをする。寺にはもう一つ、千五百石の家に生まれた初路という女の墓、糸塚がある。刺繍の名手だった彼女は、尾を銜えて連なる二つの赤蜻蛉を白羽二重に縫い取り、それを「みだらだ、風儀を乱す」と町じゅうに責め立てられて命を落とした人であった。ちょうどその糸塚を山門内へ移そうと、日傭取たちが縄をかけて転がしているところに、二人は行き合わせる。

登場人物

冒頭部(原文より)

あれあれ見たか、   あれ見たか。 二つ蜻蛉が草の葉に、 かやつり草に宿をかり、 人目しのぶと思えども、 羽はうすものかくされぬ、 すきや明石に緋ぢりめん、 肌のしろさも浅ましや、 白い絹地の赤蜻蛉。 雪にもみじとあざむけど、 世間稲妻、目が光る。   あれあれ見たか、     あれ見たか。 「おじさん――その提灯……」 「ああ、提灯……」  唯今、午後二時半ごろ。 「私が持ちましょう、磴に打撞りますわ。」  一肩上に立った、その肩も裳も、嫋な三十ばかりの女房が、白い手を差向けた。

「縷紅新草」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

大城下は、目の下に、町の燈は、柳にともれ、川に流るる。磴を下へ、谷の暗いように下りた。場末の五燈はまだ来ない。  あきない帰りの豆府屋が、ぶつかるように、ハタと留った時、 「あれ、蜻蛉が。」  お米が膝をついて、手を合せた。  あの墓石を寄せかけた、塚の糸枠の柄にかけて下山した、提灯が、山門へ出て、すこしずつ高くなり、裏山の風一通り、赤蜻蛉が静と動いて、女の影が……二人見えた。

「縷紅新草」泉鏡花(青空文庫)

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