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つばくろ(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

燕は春に帰って来る

  • 家族
  • 心理

山本周五郎 1950年(昭和25年)9月 「講談倶楽部」

文字数
21,994字
読了目安
約44分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

「話したものかどうかちょっと迷ったんだけれど」——友からもたらされた思いがけない話に、紀平高雄は実感がついていかない。四年連れ添った妻・おいちを自分は少しも知らなかったと思い知らされてゆく。題名の意味を静かに明かす結びを持つ一篇。

あらすじ

吉良の話しがあまりに突然であり、あまりに思いがけなかったので、紀平高雄にはそれがすぐには実感としてうけとれなかった。「話したものかどうかちょっと迷ったんだけれど、とにかくほかの事とは違うからね」と、吉良節太郎はつとめて淡白な調子で言う——物語はこの一場面から始まる。……ある月の冴えた晩、高雄は的場跡の道を歩いていた。二万坪ばかりの広さで今は石や材木の置場に使われ、周囲を古い椎や樫や楢が柵のように囲んでいる。あまり月が明るいので提燈を消そうと立ち停まったとき、うしろに尋常でないもののけはいを感じ、反射的に振り返るなり、覆面をした男の躯と頭上へ襲いかかる刀の閃光とが眼いっぱいにかぶさった。彼は提燈を投げて横へ跳ぶ。……襲撃の意味も、告げられた話の意味も、高雄は自分の手で確かめてゆかねばならない。そのなかで彼が思い知るのは、妻についての自分の無知である。この手はおいちを抱き、この肌はおいちの肌に触れた——だが本当に抱き、本当に触れたろうか。そうではなかった、風が林を吹きぬけるとき樹々の表てをかすめるように、ただ彼女の表面をかすめたに過ぎない。「そうだ、おれはおいちという者を知らない、四年もいっしょに夫婦でいて、おれはおいちを少しも知ってはいないのだ」。物語の結び、高雄は胸に熱い湯のようなものが溢れてくるのを感じながら、殆んど涙ぐんで子に囁く。「暖たかくなればね、燕も帰って来るし、大さんの母さんも帰って来る、……もう少しのがまんだよ、冬を越して、春になれば」。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  吉良の話しがあまりに突然であり、あまりに思いがけなかったので、紀平高雄にはそれがすぐには実感としてうけとれなかった。 「話したものかどうかちょっと迷ったんだけれど、とにかくほかの事とは違うからね」  吉良節太郎はつとめて淡白な調子で云った。

「つばくろ」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 高雄の胸に熱い湯のようなものが溢れてきた、彼は殆んど涙ぐみながら、大助に向って囁やくように云った。 「暖たかくなればね、燕も帰って来るし、大さんの母さんも帰って来る、……もう少しのがまんだよ、冬を越して、春になれば、……大さんが偉かったからね」

「つばくろ」山本周五郎(青空文庫)

原文を読む

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