二つの庭(宮本百合子)のあらすじ・登場人物
古い庭を出て、新しい庭へ
- 心理
- 家族
- 文字数
- 195,453字
- 読了目安
- 約6時間31分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1947年(昭和22年)に「中央公論」へ発表された長編小説。「伸子」に続き「道標」へと連なる自伝的三部作の第二部にあたる。夫と別れた佐々伸子が、実家という「庭」と、湯浅芳子をモデルとする素子との共同生活という新しい「庭」との間で揺れながら、女性としての自立の道を模索し、ソヴェト行きを決意するまでを描く。旧い家と新しい生活、二つの庭のあいだで引き裂かれる主人公の内面を、精緻な心理描写で追った作品である。
あらすじ
夫・佃との結婚生活を破って実家に戻った佐々伸子は、書くことを支えに新しい暮らしを立てようとしている。しかし中流の家に流れる旧い空気は変わらず、母・多計代の強い感情と支配は、娘の生き方のすみずみにまで及んでくる。実家という庭は、居心地がよいだけにいっそう息苦しい。そんな伸子の前に現れたのが、ロシア文学を学ぶ吉見素子である。歯に衣着せぬ素子の物言いと生活感覚に触れて、伸子は自分の内側にあった曖昧なものが削ぎ落とされていくのを感じる。やがて二人は郊外に家を借りて共同生活を始めた。それは家族でも夫婦でもない、女同士が対等に暮らすもう一つの庭だった。文学の話、友人たちの出入り、家計のやりくり——そこには実家にはなかった自由がある。一方で、旧い庭を完全に捨て去ることもできず、伸子は絶えず二つの庭のあいだを往き来する。世界を自分の目で見なければならない。伸子と素子は、ついにソヴェトへ渡ることを決意し、旅立ちの準備へと歩み出す。
登場人物
- 佐々伸子 離婚して実家に戻った若い作家。二つの庭のあいだで自立を模索する
- 吉見素子 ロシア文学を学ぶ女性。伸子と共同生活を営む
- 佐々多計代 伸子の母。強い感情で娘を支配しようとする
- 佐々泰造 伸子の父。建築家
- 佐々保 伸子の弟
冒頭部(原文より)
一 隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍を生やしている。そこの竹垣について曲ると、いつになく正面の車庫の戸があけはなされていた。自動車の掃除最中らしいのに、人の姿はなくて、トタン張りの壁に裸電燈が一つ、陰気にぼんやり灯っている。 伸子はけげんそうな顔で内玄関へ通じるその石敷道を歩いて行った。
「二つの庭」宮本百合子(青空文庫)
末尾部(原文より)
伸子はその言葉を思い出したのだった。僕がいなくてもわかるようにしておくから……。それは、保だって旅行に出ることもあり、そこへ、行李の中のどの本を送ってくれとたのんだ伸子の手紙がつくことだってあるだろう。けれども、なぜ、わざわざあんな風に念をおしたんだろう。保の几帳面さからではあるのだろうけれども――。そのとき、タクシーがめじるしの椎の樹の下を思わず行きすぎた。素子が、 「そこ! そこ!」 あわてて大声で注意した。伸子も自分たちの降りる角を見まちがうまいとして、バックしはじめたタクシーの座席から腰をうかした。
「二つの庭」宮本百合子(青空文庫)
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