京に着ける夕(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
春寒の京都に着いた夜の記
- 文字数
- 4,009字
- 読了目安
- 約8分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 京都府
この作品について
1907年春、朝日新聞入社直後の漱石が京都へ遊んだときの紀行文。『大阪朝日新聞』に三日にわたって載った。汽車で京都に降りた夜の寒さと、俥で糺の森の宿へ向かう道中を、子規と来た十数年前の記憶を挟みながら綴る。滑稽な誇張と哀惜が入り交じる文体で、新聞社の一員となった漱石の旅の気分が伝わる。
あらすじ
汽車から七条のプラットフォームに降ろされた「余」は、春の寒さに震えながら、友人二人と俥を連ね、京都を南から北へ走る。道の軒下に赤いぜんざいの提灯を見て、十五六年前に子規と来たとき初めて見た京都の印象を思い出す。子規と夏蜜柑を食べ歩き、穴から呼ぶ声の続く妓楼の小路を歩いたことも浮かぶが、子規はもう死んでいる。かんかららんと俥は進み、橋を渡り、大樹の茂る加茂の森の宿に着く。出迎えるのは坊主頭の人々で、湯に入ると歯の根が合わぬほど寒い。新調の太織の蒲団に入ってからも寒く、真夜中には十八世紀の置時計の音を聞いて眠りを破られ、明け方には欅の梢の烏の声に起こされる。窓を開けると細雨が糺の森を包み、余は幾重にも寒いものに取り囲まれている。春寒の社頭で鶴を夢みた、という句で結ばれる。
冒頭部(原文より)
汽車は流星の疾きに、二百里の春を貫いて、行くわれを七条のプラットフォームの上に振り落す。余が踵の堅き叩きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉から火の粉をぱっと吐いて、暗い国へ轟と去った。
「京に着ける夕」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
かくして太織の蒲団を離れたる余は、顫えつつ窓を開けば、依稀たる細雨は、濃かに糺の森を罩めて、糺の森はわが家を遶りて、わが家の寂然たる十二畳は、われを封じて、余は幾重ともなく寒いものに取り囲まれていた。 春寒の社頭に鶴を夢みけり
「京に着ける夕」夏目漱石(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。