魔の退屈(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
空襲下の悪魔の退屈
- 文字数
- 11,366字
- 読了目安
- 約23分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1946年10月、敗戦直後の雑誌『太平』に載った随筆風の一編。徴用も召集も免れ、映画会社の嘱託として「黄河」の脚本を頼まれながら書けずにいた戦争末期の日々を、作者が回想する。空襲下で読書と碁に明け暮れ、人々の荒廃を冷たい鬼の目で見ていた自分を、退屈しきった悪魔になぞらえている。
あらすじ
戦争中、徴用も召集も免れた筆者は、日本映画社の嘱託となり、黄河の治水をめぐる文化映画の脚本を頼まれる。資料を読みあさったが、撮影の見込みのない仕事は書く気になれない。蒲田の家が焼け残るなか、筆者は好奇心から東京にとどまり、書きかけの原稿を焼いて、歴史の本と碁に日を送る。「石に噛りついても」生き残ると力む荒正人や平野謙らを横目に、空襲下の人々が泥棒もせず平穏なのは、食えているからにすぎず、人間のあるべき姿ではないと考える。毎日会う反戦的な青年、あいびきを重ねる捨て鉢な女と、荒廃した魂ばかりを見つめ、自分も退屈しきった悪魔だったと省みる。六月、東京が焦土となってから、ようやく二十枚ほどの脚本を一夜で書いた。
冒頭部(原文より)
戦争中、私ぐらいだらしのない男はめったになかったと思う。今度はくるか、今度は、と赤い紙キレを覚悟していたが、とうとうそれも来ず、徴用令も出頭命令というのはきたけれども、二、三たずねられただけで、外の人達に比べると驚くほどあっさりと、おまけに「どうも御苦労様でした」と馬鹿丁寧に送りだされて終りであった。
「魔の退屈」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
書きかけの原稿を焼いた私は、私自身の当然な魂を表現していたのである。私はただ退屈しきった悪魔の魂で、碁にふけり、本を読みふけり、時々一人の女のハリアイのない微笑を眺めて、ただ快楽にだらしなくくずれるだけの肉体をもてあそんだりしていただけだった。
「魔の退屈」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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