牧野さんの死(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
夢が人生を殺した
- 文字数
- 10,251字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1936年、作家の牧野信一が小田原の実家で自ら命を絶った直後に、坂口安吾が『作品』に寄せた追悼の文章。安吾は「風博士」を牧野に激賞されて世に出た後輩で、本文は出会いからの交友、夫婦の不和をめぐる世間の噂への反論、小田原へ戻ってからの最後の日々を語り、その死を「夢が人生を殺した」と受けとめる。
あらすじ
牧野さんの自殺の真相は、彼の生涯の文章が最もよく語っている、と筆者は書き出す。貧乏も、酔余の奇行も、助平も、牧野は「そうでなければならなかった」人生を、文学のために設計して生きた人だった。筆者は二十六歳の夏、「風博士」を激賞されて知り合い、飲み歩き、ときに夫妻の喧嘩に巻きこまれた。近年は文学上の見解の違いで疎遠になっていた。新聞は夫人の別居を自殺の原因のように書いたが、筆者はそれを大袈裟な誤解とし、小田原へ戻ってから毎日死を口にしていた最後の日々と、自殺の日の黄昏の様子を伝える。そして彼の死は暗い事件ではなく、夢をなお生きつづけた明るい自殺だったと言い、通夜を抜けて谷丹三と酒を飲んだことを記す。
冒頭部(原文より)
牧野さんの自殺の真相は彼の生涯の文章が最もよく語つてゐる。牧野さんの文学は自殺を約束したところの・自殺と一身同体の・文学だつた。 牧野さんは理窟の言へない人で、自分の血族と血族にあらざる者とを常にただ次のやうな言葉によつて区別してゐた。
「牧野さんの死」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
「死んだつて驚くもんか! 然しあいつを死に易くした一つの理由は、彼の最近のインポテンツの傾向だよ」谷丹三も賛成した。そして私は敬愛する詩人の一生の祝典のために乾杯することのほかに考へられるものがなかつた。それは私の強がりではない。私は彼の純粋さには徹頭徹尾敗北だ。とても私は死ねないのだ。
「牧野さんの死」坂口安吾(青空文庫)
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