正岡子規(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
正岡の食意地の張った話
- 文字数
- 3,364字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 愛媛県
- 東京都
この作品について
子規の七回忌を前に、漱石が「ホトトギス」へ語り下ろした思い出話。松山の下宿に勝手に居据わり、蒲焼をぴちゃぴちゃ食べて勘定は君が払えと言い残して帰る——「正岡の食意地の張った話」から始まり、漢詩や哲学を振り回された学生時代、気位の高さ、政治家的な野心にまで及ぶ。友を美化せず、こちらが「ええ加減に合わして居った」と言ってのける口調のなかに、かえって深い交わりがにじむ。
あらすじ
正岡の食意地の張った話か、と漱石は笑い出す。松山にいた時分、支那から帰ってきた子規は、自分の家にも親族の家にも行かず、こちらの承知も待たずに漱石の下宿に居据わってしまった。肺病だから伝染するとまわりは止めたが、断らずに置いた。すると松山中の俳句仲間が毎日集まってきて、漱石は本を読む時間さえなくなり、やむを得ず俳句を作った。子規は昼になると蒲焼を取り寄せ、ぴちゃぴちゃと音をさせて食う。それも相談なしに自分で勝手に命じて食う。そして東京へ帰るときには「君払って呉れ玉え」と澄まして帰り、その上まだ金を貸せという。奈良から届いた手紙には、恩借の金子は当地で正に遣い果し候とあった。……もっともその前は始終こちらが御馳走になった、と話は学生時代へ遡る。学校へ出ない子規は試験前になると漱石を呼びつけ、ノートの内容をええ加減に聞いては「よしよし分った」と生呑込にしてしまう。雪隠に火鉢を持ち込み、その火鉢で牛肉を煮て食う。『月の都』を露伴に見せて得意になり、発句も近来悟ったと言って恐ろしい者は無いようにいう。漢詩では子規のほうが平仄をよく知り、哲学書を振り回されてはこちらが恐れをなしていた。妙に気位が高く、滅多に人と交際しない男が、なぜか自分とだけは交わった。「つまり僕の方が人が善かったのだな」。何でも大将にならなければ承知しない男で、二人で道を歩いていても必ず自分の思う通りに引っぱり回されたという。
登場人物
- 僕(漱石) 語り手。子規に振り回されつつ交わりを続けた
- 正岡(正岡子規) 食意地が張り気位の高い、同い年の友人
冒頭部(原文より)
正岡の食意地の張った話か。ハヽヽヽ。そうだなあ。なんでも僕が松山に居た時分、子規は支那から帰って来て僕のところへ遣って来た。自分のうちへ行くのかと思ったら、自分のうちへも行かず親族のうちへも行かず、此処に居るのだという。僕が承知もしないうちに、当人一人で極めて居る。
「正岡子規」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
一時正岡が易を立ててやるといって、これも頼みもしないのに占ってくれた。畳一畳位の長さの巻紙に何か書いて来た。何でも僕は教育家になって何うとかするという事が書いてあって、外に女の事も何か書いてあった。これは冷かしであった。一体正岡は無暗に手紙をよこした男で、それに対する分量は、こちらからも遣った。今は残っていないが、孰れも愚なものであったに相違ない。
「正岡子規」夏目漱石(青空文庫)
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