魔像(蘭郁二郎)のあらすじ・登場人物
写真に憑かれた男の罠
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 10,643字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
兵役を終えて上京したものの職が見つからない青年・寺田洵吉は、浅草で偶然再会した裕福な旧友・水木舜一郎の家を訪ねる。そこは巨大な人体の断片の写真が壁を埋める異様な家で、洵吉は水木の暗室の誘惑に引き込まれ、助手として奇怪な写真づくりに没頭していく。水木が語る「一生一代の大願」とは何か。写真に取り憑かれた男の狂気を、乾板の現像のように少しずつ浮かび上がらせる、昭和初期の怪奇探偵小説。
あらすじ
職探しに疲れた寺田洵吉は、浅草公園で数日前に再会した中学時代の同級生・水木舜一郎の名刺を思い出し、荻窪の家を訪ねる。薄暗い部屋の壁には、巨大な眼や脛や乳が浮かんでいたが、明かりをつけると、それは引き伸ばした写真だった。水木は昔から写真に取り憑かれた金持ちの道楽者で、洵吉は暗室での現像の魅力と、拡大された人体の写真の妖しい力に心を奪われる。水木に誘われて助手として住み込み、二人は蛇が蛙を呑む瞬間や、首吊りの扮装をした洵吉自身の写真など、奇怪な作品づくりに夢中になる。水木は、いつか撮りたい「一生一代の大願目」があり、それを撮ったら展覧会を開くと洵吉に語る。ある日、乾板の買い出しから戻った洵吉は、玄関に見慣れない地下足袋を見つけ、屋根裏のスタジオで襦袢一枚の娘が横たわっているのを見る。水木は笑って、行商の女をたった今殺したのだと告げる。洵吉は命じられるまま死体を硝子の箱に納めるが、水木の狙いは、健康な肉体が腐っていく過程を毎日一枚ずつ撮ることだった。題は「腐りゆくアダムとイヴ」。吐き気を催して階下へ逃げた洵吉に、水木は水を汲んで渡す。そしてイヴはこの娘、アダムはずっと前から決めていた、君だと打ち明ける。浅草で会ったときから、水木は洵吉の兵役を終えた頑健な体に惚れ込んでいたのだった。水に混ぜられた薬が回り、洵吉は床に崩れ落ち、薄れゆく意識の中で、足の先が腐り始めたように感じる。
登場人物
- 寺田洵吉 兵役を終えて上京した青年。職を探すうち水木の助手になる
- 水木舜一郎 荻窪に住む裕福な写真狂。洵吉の中学時代の同級生
- 小川鳥子 浅草の人気踊子。水木が全裸の写真を撮る
- 行商の娘 水木の家を訪れ、屋根裏のスタジオで殺される健康な娘
冒頭部(原文より)
寺田洵吉は今日も、朝から方々職を探してみたが、何処にもないとわかると、もう毎度のことだったが、やっぱり、又新たな失望を味って、当もなく歩いている中、知らず知らずに浅草公園に出ているのであった。
「魔像」蘭郁二郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
ダガ、もう薬が廻ってきたのであろうか、体には全然力がなく、不甲斐なくも、その儘床に前倒ってしまったのだ。 そして、大声で呪い、怒鳴っている筈の、自分の声も、洵吉の耳には、蚊の鳴くほどにも響かなかった。 彼は薄れ行く意識の中に、もう足の先が、ジクジクと腐りはじめたような気がしてきた……。
「魔像」蘭郁二郎(青空文庫)
原文を読む
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