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人間豹(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

猫属の舌を持つ怪人

  • ミステリ
  • 怪奇

江戸川乱歩 1934年(昭和9年)1月 「講談倶楽部」

文字数
156,001字
読了目安
約5時間12分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

「講談倶楽部」に1934年1月号から連載された乱歩の通俗長編。獣のような目と猫属のようなざらついた舌を持つ怪人「人間豹」恩田と、彼に恋人を奪われた青年神谷芳雄、そして名探偵明智小五郎の対決を描く。舞台はカフェ、レビュー劇場、浅草公園、曲馬団の大テントと、昭和初期の東京の盛り場。後半では人気レビュー女優の江川蘭子や明智夫妻も狙われ、見世物的な場面が重ねて繰り出される。

あらすじ

会社員の神谷芳雄は、カフェ・アフロディテのウエートレス弘子と恋仲にあった。ある夜、獣のように眼が光り、猫のようなざらついた舌を持つ男、恩田が現れ、弘子に執着する。弘子は行方不明になり、神谷は恩田の隠れ家の怪屋に潜入して閉じ込められ、恩田と父親の手で弘子が惨殺される光景を見せつけられる。一年あまりののち、神谷は人気レビュー女優の江川蘭子と親しくなるが、再び現れた人間豹は、大劇場の舞台から蘭子を連れ去る。蘭子の身を案じた神谷は名探偵明智小五郎に助けを求めるが、人間豹は明智の新妻、文代まで誘拐し、浅草公園に姿をくらます。明智は恩田の手下に捕らえられ、脱出して文代の行方を追い、郊外で興行するZ曲馬団にたどり着く。そこでは、猛獣団長に化けた恩田の父親が、熊の毛皮を着せた文代を虎と闘わせる見世物に仕立てていた。危機一髪、明智は虎を射殺し、父親は追いつめられて自殺する。人間豹は屋根からアド・バルーンの綱にすがって逃げ、綱を切って空へ飛び去り、そのまま行方が分からなくなる。

登場人物

冒頭部(原文より)

猫属の舌  神谷芳雄はまだ大学を出たばかりの会社員であった。しかも父親が重役を勤めている商事会社の調査課員で、これというきまった仕事もない暢気な身の上であったから、飲み覚えた酒の味、その酒を運んでくれる美しい人の魅力が忘れがたくて、つい足しげくその家へ、京橋に近いとある裏通りの、アフロディテというカフェへ通よいつづけたのも、決して無理ではなかった。  しかし、もし彼がもっと別のカフェを選ぶか、そこのウエートレスと恋をするほども足しげく通よわなかったなら、あのような身の毛もよだつ恐ろしい運命にもてあそばれなくてすんだに違いない。彼がこの物語の主人公、怪物人間豹を知ったのは、実にカフェ・アフロディテにおいてであったのだから。

「人間豹」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

「人間豹」事件は、明智小五郎が取り扱った多くの犯罪事件の中でも、最も奇怪な色彩のものであった。当の被害者が、愛妻の文代さんであったという意味だけでも、彼には長く忘れがたい印象となって残った。 「僕はね、あの風船に乗った恩田のやつが、空の上から僕たちをあざ笑った気味のわるい笑い声が、いつまでも耳に残って離れないのだよ。夢に見るのだよ。おそらく一生涯あの声は忘れないだろうね」  明智はそののち恒川警部に会うごとに、きまったようにそれを言い出すのであった。

「人間豹」江戸川乱歩(青空文庫)

名文

しかし、もし彼がもっと別のカフェを選ぶか、そこのウエートレスと恋をするほども足しげく通よわなかったなら、あのような身の毛もよだつ恐ろしい運命にもてあそばれなくてすんだに違いない。彼がこの物語の主人公、怪物人間豹を知ったのは、実にカフェ・アフロディテにおいてであったのだから。

冒頭近くの一節。カフェ通いの青年に待ち受ける運命を先に匂わせ、怪物「人間豹」の登場へ読者を引き込む乱歩らしい語り。

ああ、あれが人間の舌であろうか。まっ赤な肉の表面に、針を植えたような一面のささくれ。それが、舌を動かすたびに、風に吹かれた草むらの感じで、サーッと波打って逆立つのだ。決して人類の舌ではない。猫属の舌だ。

第一章「猫属の舌」で、神谷が謎の男の舌を目撃する場面。獣めいた細部の描写で、人間豹の不気味さを印象づける。

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