アプリで読む

無料・登録不要

蠅男(海野十三)のあらすじ・登場人物

怪人を追う名探偵

  • ミステリ
  • 怪奇

海野十三 1937年(昭和12年)1月 「講談雑誌」

文字数
118,094字
読了目安
約3時間56分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 大阪府

この作品について

海野十三が1937年(昭和12)に『講談雑誌』へ連載した長編探偵小説。名探偵・帆村荘六が登場するシリーズの代表作で、大阪を舞台に、「蠅男」と呼ばれる怪人の事件を追う。科学的な小道具と大胆な趣向を重ねた、娯楽色の強い一編である。

あらすじ

大阪住吉区の奇人・鴨下ドクトルの館で、暖炉の煙道から半焼けの死体が発見される。捜査に加わった青年探偵・帆村荘六は、館内で何者かの機関銃に撃たれ負傷する。やがてラジオ受信機の製造で財を成した富豪・玉屋総一郎のもとへ、手足をもがれ下腹を切り取った蠅の死骸を同封し、「蠅男」と署名した脅迫状が届く。玉屋は籠城するも殺害され、続いて元検事正・塩田までもが命を奪われる。帆村は、鴨下ドクトルの遺児カオルの証言から、「鴨下ドクトル」を名乗る人物こそ変装した蠅男であり、暖炉で焼かれた死体こそ本物のドクトルだったと見抜く。残されたドクトルの日記が明かした真相は戦慄すべきものだった――蠅男の正体は、かつて南洋で人を殺めて死刑となった糊本千四郎。ドクトルは「不要な手足や臓器を切除すれば余った脳力で天才になる」という自説を確かめるため、刑死体を蘇生させ、手足と臓腑を切り縮めて「縮小人間」に作り変えていた。超人的な頭脳と組立式の義手義足を得た蠅男は、自分をこの姿にした鴨下、死刑のきっかけを作った玉屋、無期の望みを断った塩田への復讐に走ったのである。爆弾を仕掛けるなど暴威を振るう蠅男を、帆村は単身追い、天王寺の砂風呂で情婦お竜ともども罠にかけられ絶体絶命に陥りながらも逆転、熱湯のプールへ抱えこんで捕える。蠅男は舌を噛んで自ら果てた。事件ののち、帆村は事件を通じて結ばれた玉屋の娘・糸子と結婚し、東京へと旅立つのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

問題の「蠅男」と呼ばれる不可思議なる人物は、案外その以前から、われわれとおなじ空気を吸っていたのだ。只われわれは、よもやそういう奇怪きわまる生物が、身辺近くに棲息していようなどとは、夢にも知らなかったばかりだった。まことにわれわれは、へいぜい目にも耳にもさとく、裏街の抜け裏の一つ一つはいうにおよばず、溝板の下に三日前から転がっている鼠の死骸にいたるまで、なに一つとして知らないものはないつもりでいるけれど、しかし世の中というものは広く且つ深くて、かずかずの愕くべきものが、誰にも知られることなく密かに埋没されているのである。

「蠅男」海野十三(青空文庫)

末尾部(原文より)

ベルの音がハタと止った。いよいよ発車である。見送りの人たちは、いいあわせたように両手をあげて、二人の新しい生活の門出に万歳をとなえた。「帆村探偵、ばんざーい」「花嫁糸子さん、ばんざーい」いまは夫と仰ぐ帆村荘六とチラリと目を見合わせて、新婦糸子は羞しそうにパッと頬を染めた。それを望んで、見送り人たちの中から、また大きな賑やかな拍手が起った。列車は測りきれない幸福を積んで、徐々に東へ動きだした。

「蠅男」海野十三(青空文庫)

名文

問題の「蠅男」と呼ばれる不可思議なる人物は、案外その以前から、われわれとおなじ空気を吸っていたのだ。

帆村荘六が活躍する『蠅男』の書き出し。怪人がすでに身近に潜んでいたと告げる語り口で、探偵小説らしい不穏な気配をつくる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品