空中墳墓(海野十三)のあらすじ・登場人物
月の空に浮かぶ墓標
- SF
- ミステリ
- 文字数
- 13,986字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1928年(昭和3年)に探偵雑誌「新青年」に発表された、海野十三の初期の短編。行方不明になった飛行機「松風号」をめぐって、名探偵・栗戸利休が天文台の望遠鏡で月の空へ謎を追う。推理小説の形式で宇宙科学の空想を結びつけた、日本SFの先駆けともいえる作品。
あらすじ
名探偵・栗戸利休のもとに、紳士・相良十吉が調査の依頼にやって来る。行方不明となった飛行機「松風号」の運命と、その乗員だった松井田の消息を知りたいというのである。栗戸は助手の根賀地とともに事件を調べ、襲撃をかわしながら中央天文台へ向かう。望遠鏡の視野に捉えられたものを見た相良は、衝撃のあまり気を失う。事件の真相が明かされたとき、物語は宇宙空間を舞台にした意外な光景へとつながっていく。
登場人物
- 私(栗戸利休) 白髪の名探偵。事件を推理で解き明かす
- 相良十吉 松風号の運命を調べてほしいと依頼する痩せた紳士
- 根賀地 栗戸探偵の部下。天文台との連絡役を務める
- 矢口 栗戸探偵邸の執事
冒頭部(原文より)
ぽっかり、眼が醒めた。 ガチャリ、ガチャリ、ゴーウウウ。 四十階急行のエレベーターが昇って来たのだった。 「誰か来たナ」 まだ半ば夢心地の中に、そう感じた。職業意識のあさましさよ、か。 この四五日というものは夜半から暁にかけてまでも活躍をつづけたので身体は綿のごとく疲れていた。それだのに、思ったほどの熟睡もとれず、神経は尖る一方であった。 今も急行エレベーターで昇って来た人間が、果して自分のところへ来るのだか、または他へ行くのだかわかりもしないのに、寝台の上で息を殺して待っている自分がおかしかった。
「空中墳墓」海野十三(青空文庫)
末尾部(原文より)
――松風号は宇宙艇のすぐうしろにつづいてこれを静かに追っているかのように見えた。追うも追われるも、これ倶に屍体にあやつられる浮船である。私が企てた復仇を待つまでもなく今天涯にのがれ出でた相良十吉であったが、風間真人の執念は未だにくつることなく彼の人の上にかかっているようだ。二つの浮船の行手間近かに聳え立つは荒涼として死の国の城壁かと思わるる月陰の地表である。凄惨限りなき空中墳墓! おおこの奇怪きわまりなき光景を望んで気が変にならないでいられるものがあり得ようか。私は、真弓子と其の愛人に望遠鏡をゆずることさえ忘れて、其の場に立ちつくしていたのである。
「空中墳墓」海野十三(青空文庫)
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