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振動魔(海野十三)のあらすじ・登場人物

音の振動に託した恐ろしい企み

  • ミステリ
  • SF

海野十三 1931年(昭和6年)11月 「新青年」

文字数
17,354字
読了目安
約35分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

海野十三が1931年(昭和6年)11月号の「新青年」に発表した探偵小説。私立中学の物理教師である「僕」が、郷里の幼なじみで、名声も資産もある社会教育家・柿丘秋郎の企てた奇怪な実験について書き記す手記の体裁をとる。結核を名医・白石博士の新療法で救われた柿丘は、恩人の妻である雪子夫人と抜き差しならない関係に陥っていた。窮地に立った柿丘が邸内に防音の実験室を建て、ある装置を据えつけるところから、物語は不気味な方向へ動き出す。共鳴をドロップの空き缶で説明するくだりのように、物理の原理を物語の仕掛けに組み込む海野らしさがよく表れた一編で、探偵・帆村荘六も登場する。

あらすじ

物理教師の「僕」こと町田狂太は、竹馬の友で、宗教家・社会教育家として名高い柿丘秋郎の奇怪な実験について語りはじめる。柿丘は重い結核を呼吸器病の大家・白石右策博士の新療法で救われ、白石家と親しく交わるようになったが、デリケートな美しい妻・呉子がありながら、博士の妻で年上の雪子夫人と関係を結んでいた。ある夏の日、柿丘邸に忍びこんだ「僕」は、雪子夫人が柿丘の子を身ごもり、堕胎を拒んで、生まれる子を楯に柿丘を一生縛りつけると迫るのを盗み聞く。博士に子種がないため、子が生まれれば関係は露見してしまうのだ。ひと月後、柿丘は旅順大学の研究班に貸すと称して、邸内に防音の実験室を建てる。容器にはそれぞれ固有の振動数があり、同じ振動数の音を当てれば共鳴して激しく震える――柿丘は子宮の大きさから振動数を割り出し、その音を出す装置で、夫人に気づかれずに胎児を流そうとしていたのだった。実験室に招かれた雪子夫人は、装置の低い唸りを聞くうちに下腹を押さえ、やがて血に濡れたものを柿丘に投げつけて去る。勝ったと思った柿丘は、その直後に大喀血して高熱に倒れ、白石博士を呼ぶなと言い残して二日後に死んだ。未亡人となった呉子に寄り添い、ついに結婚の誓いを受けようとしていた「僕」の前に、私立探偵の帆村荘六が現れる。柿丘の肺の空洞が雪子夫人の子宮とほぼ同じ大きさであることをレントゲン写真から計算し、柿丘自身の手で装置を動かさせて空洞を破壊させたのは、物理教師の「僕」だった。呉子を手に入れ、保険金を詐取するための企てだったと暴かれた「僕」は、死刑の判決を受け、絞首台にのぼる前夜にこの懺悔録を書き終える。

登場人物

冒頭部(原文より)

 僕はこれから先ず、友人柿丘秋郎が企てた世にも奇怪きわまる実験について述べようと思う。

「振動魔」海野十三(青空文庫)

末尾部(原文より)

 それから、満二ヶ年の歳月が流れて、公判のあとに公判が追いかけ、遂に先頃、大審院の判決もすんで、ここに一切の訟訴手続きが閉鎖されることになった。それから僕は、この拙い懺悔録を書き綴りはじめたのだったが、不思議なことに、どうやらやっと書き終えた今夜は、僕が味わうことの出来る最後の夜らしい。そのことは前日から感付いていたので、別に臆しもしない。  この思い出ふかい夜が静かに明けはなれると共に、この監房を立ちいでて、高い絞首台にのぼらねばならないのである。

「振動魔」海野十三(青空文庫)

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