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電気風呂の怪死事件(海野十三)のあらすじ・登場人物

電気風呂の怪事件

  • ミステリ

海野十三 1928年(昭和3年)4月 「新青年」

文字数
16,789字
読了目安
約34分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

海野十三が1928年(昭和3)に雑誌『新青年』へ発表した探偵小説。当時流行した「電気風呂」を舞台に、不可解な事件が起こる。作者の実質的なデビュー作とされ、科学の趣味を探偵小説に持ち込む作風の出発点になった。

あらすじ

昼湯の長閑さを愛する井神陽吉が、行きつけの「電気風呂」向井湯の湯槽で突然感電し、悶絶する。男湯が騒然となるなか、隣の女湯では若い女が天井から吹き矢で射殺され、その着衣も下駄も忽然と消えていた。天井裏には風呂屋の下働き由蔵の死体と、望遠鏡・活動写真の撮影機・吹き矢が残されていた。赤羽司法主任は、女湯の惨殺体の血が天井の節穴から滴っていたこと、被害者の着衣が跡形もなく失われていたことなど、次々に現れる謎に翻弄される。だが感電被害者の身元調べに来ていた巡査の手帳から、活動写真業を営む樫田武平の名を見出し、事件を看破する。犯人の樫田は、若い女が苦悶して死んでゆく姿を映画に撮ろうという変態的な野心から、電気風呂に高電圧を流して男湯で感電騒ぎを起こし、その隙に女湯の女を吹き矢で殺して撮影、さらに気づいた由蔵をも刺殺し、被害者の着衣をまとって女装で非常線をくぐろうとしたのだった。捕縛ののち試写されたフィルムには、期待された断末魔ではなく、高速度カメラのために、南海の人魚が舞うような妖艶な游泳の姿だけが映っていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

井神陽吉は風呂が好きだった。殊に、余り客の立て混んでいない昼湯の、あの長閑な雰囲気は、彼の様に所在のない人間が、贅沢な眠から醒めたのちの体の惰気を、そのまま運んでゆくのに最も適した場所であった。それに、昨日今日の日和に、冬の名残が冷んやりと裸体に感ぜられながらも、高い天井から射し込む眩しい陽光を、恥しい程全身に浴びながら、清澄な湯槽にぐったりと身を横えたりする間の、疲れというか、あの一味放縦な陶酔境といったものは、彼にとって、ちょっと金で買えない娯しみであったのだ。

「電気風呂の怪死事件」海野十三(青空文庫)

末尾部(原文より)

さて、かくして怖るべき「電気風呂」の怪死事件は、犯人の捕縛と共に一切闡明されるに到った。やがて、あのフィルムは、警視庁へ移送されてその犯罪捜査に携った一同の役人並に庁内主脳者の前で、たった一度だけ試写された。が、凡そ其試写会に立会った程の人々は、期待していた若き一婦人の断末魔の姿を見る代りに、ま白きタイルの浪の上に、南海の人魚の踊りとは、かくもあるかと思われるような、蠱惑に充ちた美しいお照の肉体の游泳姿態を見せられて、いずれ物言わぬ眼に陶然たる魅惑の色を漂わしていたものである。何故ならそのフィルムは故意か偶然か、高速度カメラで撮られていたのである。

「電気風呂の怪死事件」海野十三(青空文庫)

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