明治の文学の開拓者――坪内逍遥――(内田魯庵)のあらすじ・登場人物
明治文学を拓いた逍遥への頌
- 文字数
- 4,455字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
戯作と卑しめられた小説を精神的事業へと引き上げた「文学士春の屋朧」坪内逍遥。その『書生気質』や『小説神髄』が当時の青年に与えた計り知れない威力、演劇改良や早稲田・文芸協会での功績を、内田魯庵が率直な筆で讃える。作そのものよりも、新しい道を切り拓いたエポック・メーカーとしての功労をたたえる評論。
あらすじ
内田魯庵が、明治文学最大の開拓者として坪内逍遥の功労をたたえた評論。まず『書生気質』を傑作でも何でもない愚作だと率直に断じつつ、それでも「文学士春の屋朧」の名で戯作扱いされていた小説を堂々と署名して打って出たことが青天の霹靂のごとく世を驚かし、当時の文学士の権威が計り知れなかったと説く。『小説神髄』が世間を敬服させ、二葉亭も尾崎紅葉も、この逍遥の名声に動かされて文壇に身を投じたと見て、戯作として卑下されていた小説戯曲が文明に貢献する精神的事業であることを社会に認めさせたのは全く逍遥の功労だとする。さらに『桐一葉』による演劇界への挑戦、早稲田文学の隆盛、文芸協会の成功を挙げ、その作品そのものの価値よりも、封鎖された領域の関門を次々に開いた点にこそ逍遥の偉大さがあると論じる。近来のアイコノクラストたちが生じえたのも逍遥が新しい道を開いたおかげだとして、坪内君は明治の文学の大いなるエポック・メーカーであると結ぶ。
登場人物
- 坪内逍遥(つぼうちしょうよう) 文学士春の屋朧。『書生気質』『小説神髄』の作者。戯作扱いの小説を精神的事業へ引き上げた明治文学の開拓者。
- 内田魯庵(うちだろあん) 著者。明治二十二年頃以来、逍遥に世話になった。
- 二葉亭四迷(ふたばていしめい) 逍遥の名に動かされ小説を書いたとされる。小説の真の先覚者とも評される。
- 尾崎紅葉(おざきこうよう) 逍遥の名声に動かされ文学的野心を燃やしたとされる大才子。
冒頭部(原文より)
坪内君の功労は誰でも知ってる。何も特にいわんでも解ってる。明治の文学の最も偉大なる開拓者だといえばそれで済む。福地桜痴、末松謙澄などという人も創業時代の開拓者であるが、これらは鍬を入れてホジクリ返しただけで、真に力作して人跡未踏の処女地を立派な沃野長田たらしめたのは坪内君である。 有体にいうと、坪内君の最初の作『書生気質』は傑作でも何でもない。愚作であると公言しても坪内君は決して腹を立てまい。
「明治の文学の開拓者――坪内逍遥――」内田魯庵(青空文庫)
末尾部(原文より)
近来はアイコノクラストが到る処に跋扈しておるから、先輩たる坪内君に対して公然明言するものはあるまいが、内々では坪内君の文学は自分等とは交渉しないナドトいってるものもあるかも知れぬが、坪内君が新らしい文学の道を開いてくれなかったなら今日の文学はこれほどまでに進歩しなかったかも知れぬ、諸君のようなアイコノクラストが沢山生じたのは即ち飛りも直さず坪内君の功労である。坪内君は明治の文学の大いなるエポック・メーカーである。
「明治の文学の開拓者――坪内逍遥――」内田魯庵(青空文庫)
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