二十世紀旗手(太宰治)のあらすじ・登場人物
生れて、すみません。
- 文字数
- 14,083字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「生れて、すみません。」——この有名な一句が副題として掲げられた、太宰治の破格の実験作。物語の筋を放棄し、序唱から終唱まで、断片的な独白と警句と自嘲が奔流のように連ねられる。パビナール中毒と精神の危機のただなかで書かれた、若き太宰の絶叫のような一編である。
あらすじ
「苦悩たかきが故に尊からず」——序唱「神の焔の苛烈を知れ」は、生垣ごしに競って伸びた二株の立葵の寓話から始まる。高い高いと背伸びして、いじけた花を二、三輪つけただけの葵。神の園に草鞋のまま上がりこんで花を手折り、神の昼寝の寝顔まで覗いてきたと得意げに語る「かたち老いたる童子」。その道化ぶりに満場は喝采するが、当人はそれを賞賛と信じこみ、ついに「私こそ神である」と口走ってしまう。以下、この作品には筋らしい筋がない。書きかけた小説の断片、友人への手紙、聞きかじった箴言、パリの新聞の見出し、自作の詩、そして自嘲と韜晦が、章題だけをたよりに次々と入れ替わって現れる。「大隊長」「三月三十日」「花吹雪」「猿ヶ島」——太宰はみずからの生い立ちと、左翼運動からの脱落、心中未遂、薬物中毒といった過去を、正面から書くことを避けながら、断片の隙間から覗かせてゆく。「思ひ出」「道化の華」を経て「人間失格」へと至る道すじの、ちょうど真ん中に位置する作品である。終わり近く、書きためた三十冊近い雑記帳が関税のために倉庫へ放り込まれ、十か月後にやっと取り出せたのは小さなバスケット一箇だけだった、という譬えが語られる。開けてみれば飛び出したのは百千の思念の小蟹。あるじはあわてふためいてあれを追いこれを追い、一行書いては破り、しだいに悲しく、たそがれの部屋の隅でペンを握りしめたまま、めそめそ泣いていたという。
冒頭部(原文より)
序唱 神の焔の苛烈を知れ 苦悩たかきが故に尊からず。これでもか、これでもか、生垣へだてたる立葵の二株、おたがい、高い、高い、ときそって伸びて、伸びて、ひょろひょろ、いじけた花の二、三輪、あかき色の華美を誇りし昔わすれ顔、黒くしなびた花弁の皺もかなしく
「二十世紀旗手」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
さて皆様の目のまえに飛び出したものは、おや、おや、これは慮外、百千の思念の小蟹、あるじあわてふためき、あれを追い、これを追い、一行書いては破り、一語書きかけては破り、しだいに悲しく、たそがれの部屋の隅にてペン握りしめたまんま、めそめそ泣いていたという。
「二十世紀旗手」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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