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おはなし(夏目漱石)のあらすじ・登場人物

根くらべに負けて来ました

夏目漱石 1914年(大正3年)5月 「浅草文庫」

文字数
5,681字
読了目安
約11分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 東京都

この作品について

東京高等工業学校の文芸部に招かれた漱石が、題も決めずに一時間ほど話した講演の筆記。数十回の依頼を断り続けた末に「根くらべで根がつきて出て来た」という自嘲から始まり、自分もかつて建築家を志した工業志望者であったこと、そこから文学へ移った経緯へと話は進む。専門を異にする学生たちに向けて、職業としての文芸と人間としての本分を語った、くだけた語り口の記録。

あらすじ

この学校へ来るのは初めてだが、依頼を受けたのは初めてではない——漱石はそう切り出す。二、三年前に教授から頼まれて以来、数十回の依頼をみんな断ってきた。断るのは面白いからではなく止むを得ないからで、その止むを得ない事が度重なって気の毒なので、今日はやって来た。言わば根くらべで根がつきて出て来たようなしまつだから、面白い話もできかねる。題もない。……そう前置きして、漱石は自分と聴衆との距離から語りはじめる。専門があなた方とはまるで違う、こんな機会でなければ顔を合わすこともない。けれども自分も工業の部門に属する専門家になろうとしたことがあった。建築家になろうと思ったのである——なぜかは問題ではないが、話のついでに、と話は進む。やがて話題は自らの職業と文芸のありようへ移り、導体的な文芸家・美術家も必要かもしれないが、人間としての本分を自覚しなければならない、という一点に行き着く。ここが大切なところで十分に説明しなければいけないのだが、今日は時間がないからこれで止める、と漱石は打ち切り、自分の話は職業の違いからこちらの方をくわしく述べたけれども、あなた方の方面でもある程度までは応用がきくはずだと結んだ。

冒頭部(原文より)

 私はこの学校は初めてで――エー来るのは始めてだけれどもご依頼を受けたのは、決して、初めてではありません。  二三年前、田中さん(田中喜一、東京高等工業学校教授)から頼まれたのです。その頃、頼みに来て下さった方は、もうご卒業なさったでしょう。それ以来、数十回のご依頼を受けましたがみんなおことわりしました。

「おはなし」夏目漱石(青空文庫)

末尾部(原文より)

 私のいうた事はあなた方と私どもの職業の違から私どもの方をくわしくいうたのだけれどもあなた方の方もある程度までは応用がききます、あなた方の職業の方面において、幾分か参考になる事があるでしょう。もっとも文芸部の会ですから応用がきかなくっても、威張ってそういう権利があります。しかし個人としてなり職業としてなり、ご参考になれば非常に私はうれしい。――それだけです。

「おはなし」夏目漱石(青空文庫)

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