女忍術使い(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
林芙美子をしのぶ忍術使いの話
- 文字数
- 2,611字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1951年8月、林芙美子の死の直後に『文学界』へ載った追悼の随筆。ウイスキーを手みやげに持たせた彼女、深夜に子分を連れて遊びに来た彼女、長崎の宿でその匂いを嗅いだ話など、安吾の記憶に生きる林芙美子が、くだけた口調でよみがえる。「忍術が使いたい」と笑った人を、諸方の風の中で会える一生懸命な詩人として結ぶ。
あらすじ
二、三週間前、熱海に寄った記者が林芙美子から預かったウイスキーを持ってきた。芙美子はよく動く人で、東京へ帰ったばかりだった。上京した安吾がモミジで仕事をしていると、深夜二時半に芙美子が子分を連れて遊びに来て、「アア、忍術が使いたい」と言った。自分のカラダがフッと消えたら、時々現れては退屈していたい、六百年後の大統領が勲章をくれるかもしれない、と話した。十日ほど前、文藝春秋の用事で長崎へ行った安吾は、鉄道案内所で紹介された旅館に入ったとき、「林芙美子の匂いがする」と直感し、同行の記者から、彼女がまさにその宿で盗難に遭ったと聞く。最後に会ったのは半年前、熱海へ向かう汽車の中で、自家製のスシの折詰を広げていた。いまは長崎の風の中にも彼女がいるように思える。彼女は一生懸命な詩人で、そんな林さんが一番よい林さんらしい。くれたウイスキーはまだ押入れにあるそうだ、そのうちゆっくり飲もう、と結ぶ。
冒頭部(原文より)
二、三週間前、熱海へ寄ってきた某記者が、「林芙美子さんからです」 と云って、ウイスキー一本ぶらさげてきた。例の桃山荘で仕事中の由であった。
「女忍術使い」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかし、実は、十日前に長崎で彼女に対面してきたばかりなのさ。私にとっては、彼女は実によく動く存在さ。彼女は長崎の風のなかにも確かにいた。これからも諸方の街を吹く風の中で彼女に会うことがあるだろう。そして私が諸方の風の中で会う林さんは、一生懸命な詩人で、いちばんよい林さんらしい。 せんだって彼女からもらったウイスキーはまだ押入れにあるそうだ。彼女はカストリの忍術使いだなどと御ケンソン遊ばしたが、コロコロコロと、呪文を唱えて、とびきりのウイスキーをおいて行ったよ。そのうち、ゆっくり、のみましょう。コロコロコロ。
「女忍術使い」坂口安吾(青空文庫)
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