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おせん(邦枝完二)のあらすじ・登場人物

笠森お仙、江戸中の評判娘

  • 恋愛
  • 歴史

邦枝完二 1933年(昭和8年) 「東京朝日新聞」

文字数
74,074字
読了目安
約2時間28分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

谷中・笠森稲荷の水茶屋の娘で、江戸中の評判となった笠森お仙。浮世絵師・鈴木春信の錦絵に描かれ、若い男たちを夢中にさせたその娘の恋と生涯を、邦枝完二が艶やかな筆で描いた長編。小村雪岱の挿絵とともに新聞に連載され、江戸情緒の再現に成功した昭和の代表的な時代小説である。

あらすじ

谷中の感応寺を北へ離れた茅葺の家。垣根に絡んだ夕顔も白く、秋草の乱れる庭は、評判の浮世絵師・鈴木春信の錦絵そのままの美しさである。その垣根の外で、若旦那と松五郎が身をひそめ、「弁天様」の姿を待っていた——物語はそんな夜の場面から始まる。笠森稲荷の水茶屋・鍵屋の娘お仙は、春信の錦絵に描かれてから江戸中の評判となり、水茶屋には連日、娘ひと目見たさの客が押しかけていた。だがお仙自身の心は、幼なじみである若い役者・菊之丞(吉ちゃん)に向いている。本多信濃守の妹お蓮をはじめ、お仙をわがものにしようとする者たちの思惑が渦を巻き、春信の絵をめぐる駆け引き、若旦那たちの色恋沙汰、町の噂が絡みあってゆく。江戸の風俗と人情、水茶屋の賑わい、浮世絵の版元の内幕が、細やかに描き込まれる。やがて菊之丞は病に倒れ、若くして世を去ってしまう。北を枕に横たわる、女にも見まほしいほど澄んだその顔に、おせんは白粉刷毛を手に取り、名匠が毛描きでもするように丹念に化粧をほどこした。唇に真紅の紅がさされると、菊之丞の顔は物を言うかと怪しまれるまでに蘇る。「あたしゃ千人万人の人からいい寄られても、死ぬまで動きはいたしませぬ」——涙が頬を濡らしたそのとき、焼香の客として現れたのは、夜叉のごとく厚化粧をしたお蓮の姿だった。

登場人物

冒頭部(原文より)

「おッとッとッと。そう乗出しちゃいけない。垣根がやわだ。落着いたり、落着いたり」 「ふふふ。あわててるな若旦那、あっしよりお前さんでげしょう」 「叱ッ、静かに。――」  谷中の感応寺を北へ離れて二丁あまり、茅葺の軒に苔持つささやかな住居ながら垣根に絡んだ夕顔も白く、四五坪ばかりの庭一杯に伸びるがままの秋草が乱れて、尾花に隠れた女郎花の、うつつともなく夢見る風情は、近頃評判の浮世絵師鈴木晴信が錦絵をそのままの美しさ。

「おせん」邦枝完二(青空文庫)

末尾部(原文より)

「――あたしゃ、これから先も、きっとおまえと一緒に、生きて行くでござんしょう。おまえもどうぞ、魂だけはいつまでも、あたしの傍にいておくんなさい。あたしゃ千人万人の人からいい寄られても、死ぬまで動きはいたしませぬ。――もし、吉ちゃん。……」  ぽたりと落ちたおせんの涙は、菊之丞の頬をぬらした。

「おせん」邦枝完二(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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