さをのしづく(樋口一葉)のあらすじ・登場人物
筆のおもむくままの覚え書き
- 文字数
- 4,694字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
樋口一葉の随想断片集。紫式部と清少納言の優劣、筆の持ち方、連歌の座の様子、書や歌をめぐる覚え書き、世間からの評への自嘲などが、段落ごとに気ままに書きつけられている。本文は文語体で、段の区切りを全角の空白でつなぐ。底本は筑摩書房『樋口一葉全集 第三巻(下)』。
あらすじ
冒頭は、ある人の家で紫式部と清少納言の優劣が話題になった場面。人々は式部をほめるが、作者は清少納言を、後ろ盾もなく宮仕えに出て才によって名を知られた哀れな人として擁護し、式部は富家に育った素直な妻のようだと対比する。続いて、筆は力を入れず柔らかく持つのがよいという話、来てほしい人はなかなか来ず来てほしくない人はよく来るという感想、連歌の席で下の句をつけあった遊び、書家の長三洲をめぐる思い出、歌を論じる人についての見聞などが段ごとに並ぶ。終わりの方では、自分が「明治の清少」「女西鶴」などと呼ばれたり、すね者と言われたりすることに触れて歌を詠み、春の夕べに家に何もなくても身なりや暮らしの不如意をおかしがる心を述べて、世の中はすべておかしいものだと結ぶ。
冒頭部(原文より)
ある人のもとにて紫式部と清少納言のよしあしいかになどいふ事の侍りし 人は式部/\とたゞほめにほめぬ しかあらんそれさる事ながら清はらのおもとは世にあはれの人也 名家の末なれば世のおぼえもかろからざりしやしらず 万に女ははかなき物なればはか/″\しき後見などもなくてはふれけむほどうしつらしなどみにしみぬべき事ぞ多かりけらし やう/\宮づかへに出初ぬる後宮の御いつくしみにさる人ありとしられ初て香爐峯の雪に簾をまくなど才たけたりとはかくしてぞあらはれぬ 少納言は心づからと身をもてなすよりはかくあるべき物ぞかくあれとも教ゆる人はあらざりき 式部はをさなきより父爲時がをしへ兄もありしかば人のいもうとゝしてかず/\におさゆる所も有たりけん いはゞ富家に生れたる娘のすなほにそだちてそのほど/\の人妻に成たるものとやいはまし 少納言は心たかく身のはか/″\しからざりしかばことに出で行ひにあらはさではいづらいかにと見る人もあらざりけんを式部は天台の一心三觀とやらんおさむる所ふかく侍りし 少納言も佛人にてはありけれどこゝろに浪のさわぎはげしければくまなき月は照らさずや侍りけん あはれなるはかくありける身ぞかし
「さをのしづく」樋口一葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
春のゆふべよは花さきぬべしとて人ごゝろうかるゝ頃三日四日のかけ斗に成て一物も家にとゞめずしづかにふみよむ時の心いとをかし はぎ/\の小袖の上に羽織きて何がしくれがしの會に出でつ もすそふまれて破らじと心づかひする又をかし 身のいやしうて人のあなどる又をかし 此としの夏は江の嶋も見ん箱根にもゆかん名高き月花をなど家には一錢のたくはへもなくていひ居ることにをかし いかにして明日を過すらんとおもふにねがふこと大方はづれゆくもをかし おもひの外になるもをかし すべてよの中はをかしき物也
「さをのしづく」樋口一葉(青空文庫)
原文を読む
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