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通俗作家 荷風――『問はず語り』を中心として――(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

荷風は文学者に非ず

坂口安吾 1946年(昭和21年)9月 「日本読書新聞」

文字数
2,471字
読了目安
約5分
表記
新字旧仮名

この作品について

永井荷風の「問はず語り」を中心に、荷風文学を厳しく批判した坂口安吾の評論。昭和21年9月の「日本読書新聞」に発表された。荷風には「如何に生くべきか」の追求がなく、風景に逃避して諦観するだけで、文学者ではなく通俗作家にすぎないと断じる。荷風を高く評価する当時の風潮に対する挑発的な文章であり、安吾自身の文学観がよく出ている。

あらすじ

「問はず語り」は話が都合よくできすぎている、と筆者は言う。老画家が女中と関係を結ぶと、妻はそれを知らずに感謝を残して死ぬ。荷風の作品は「つゆのあとさき」でも、妻が夫の不貞に気づけば諦めて去り、そこから人間関係の発展や探求が生まれない。人倫の発展を身をもって究める作家精神が欠けている。荷風は生まれながらに多少の名誉と財産をもった人であり、自分の境遇が脅かされることを憎む心情がモラルの最後を決めている。懐古趣味が文学の態度になっている点で、本質を見極めたうえで軽蔑する正宗白鳥とは異なる。男女の宿命的な葛藤を風景に安直に結びつけるだけで、人間の苦悩の魂はなく、通俗な戯作の筆と模様を織っているにすぎない、と結論づける。

冒頭部(原文より)

「問はず語り」は話が好都合にできすぎてゐる。主人公の老画家が松子(女中)と関係を結ぶと気附かれぬうちに妻君の辰子が急病で死んで、それも深い感謝をさゝげて死んでしまふ。

「通俗作家 荷風――『問はず語り』を中心として――」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

風景も人間も同じやうにたゞ眺めてゐる荷風であり、風景は恋をせず、人間は恋をするだけの違ひであり、人間の眺めに疲れたときに風景の眺めに心をやすめる荷風であつた。情緒と道楽と諦観があるのみで、真実人間の苦悩の魂は影もない。たゞ通俗な戯作の筆と踊る好色な人形と尤もらしい風景とが模様を織つてゐるだけである。

「通俗作家 荷風――『問はず語り』を中心として――」坂口安吾(青空文庫)

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