『吾輩は猫である』中篇自序(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
亡き子規に猫を捧げる
- 文字数
- 2,010字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
単行本中篇の序として書かれた、正岡子規への追悼文。ロンドン留学中の漱石に宛てて子規が病床から送った、片仮名まじりの最後の手紙が全文引かれる。「僕ハモーダメニナッテシマッタ」で始まるその文面に応えられぬまま友を死なせてしまった悔い。そして「猫」と糸瓜の句を碣頭に献じ、往日の気の毒を五年後に晴らそうという——漱石の子規への思いが最も直接にあらわれた一文。
あらすじ
「猫」の稿を継ぐときは初篇と同じ程度の枚数で擱筆し上下二冊にするつもりだったが、頁が延びたので書肆が上中下にしたいと申し出た——そう書き出したうえで、漱石は序を書きながらふと思い出したことがあるという。ロンドンにいたころ、病床の子規を慰めるために彼地の模様を書いて二、三回長い消息を送った。無聊に苦しんでいた子規はそれを面白がり、もう一度何か書いてくれと依頼をよこした。相当な重体で文句も悲酸であったから何か認めてやりたいと思ったものの、こちらも遊んでいる身ではなく、そのままにしているうちに子規は死んでしまった。……筺底から取り出したその手紙が、ここに全文引かれる。「僕ハモーダメニナッテシマッタ、毎日訳モナク号泣シテ居ルヨウナ次第ダ」に始まり、送られた手紙が非常に面白かったこと、西洋を見たがっていた自分が病人になってしまった無念、「僕ハ迚モ君ニ再会スルコトハ出来ヌト思ウ」「書キタイコトハ多イガ苦シイカラ許シテクレ玉エ」まで。垂死の病人とは思えぬ確かな筆力の行書である。漱石は、「忙がしいから許してくれ玉え」という自分の返事には少々の遁辞が這入っていたと省み、憐れな子規は通信を待ち暮らしたまま息を引き取ったのだと書く。子規は憎い男だが、ああ言われると気の毒でたまらない。その気の毒を晴らさぬうちに、とうとう彼を殺してしまった——。「猫」は自分を有名にした第一の作物であるから、これを地下に寄するのが恰好かもしれない。季子が剣を墓にかけた故事にならい、漱石は「猫」と、糸瓜にちなむ古い句を糸瓜仏に献じる。
登場人物
- 余(漱石) ロンドンからの返事を書けぬまま友を失った作者
- 子規(正岡子規) 病床から最後の手紙を送った亡友
冒頭部(原文より)
「猫」の稿を継ぐときには、大抵初篇と同じ程な枚数に筆を擱いて、上下二冊の単行本にしようと思って居た。所が何かの都合で頁が少し延びたので書肆は上中下にしたいと申出た。其辺は営業上の関係で、著作者たる余には何等の影響もない事だから、それも善かろうと同意して、先ず是丈を中篇として発行する事にした。
「『吾輩は猫である』中篇自序」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
余は未だに尻を持って居る。どうせ持っているものだから、先ずどっしりと、おろして、そう人の思わく通り急には動かない積りである。然し子規は又例の如く尻持たぬわが身につまされて、遠くから余の事を心配するといけないから、亡友に安心をさせる為め一言断って置く。 明治三十九年十月
「『吾輩は猫である』中篇自序」夏目漱石(青空文庫)
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