私の個人主義(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
「自己本位」をつかむまで
- 文字数
- 23,467字
- 読了目安
- 約47分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
夏目漱石が1914年(大正3年)11月、学習院の輔仁会でおこなった講演の記録。漱石晩年の思想を、平明かつ率直に語った名講演として広く読まれている。英文学に打ち込みながらも空虚と不安に苦しんだ若き日、ロンドン留学の孤独のなかで「自己本位」という一語をつかみ取った経緯を語り、そこから、他人の個性を尊重しつつ自己の個性を発展させる「個人主義」の何たるかを、若者たちに説く。近代日本人の生き方の指針として、今なお読み継がれている。
あらすじ
大正三年十一月、夏目漱石が学習院の輔仁会でおこなった講演の記録である。漱石はまず、みずからの遍歴を率直に語る。英文学を学びながらも「自分の手に一枚の札もないよう」な空虚と不安に苦しんだ若き日、そしてロンドン留学の孤独のなかで、ついに「自己本位」という一語をつかみ取った経緯――他人の借り物ではなく、自分自身を本位として生きるべきだという確信が、彼を救い、進むべき道を照らしたことを説く。そこから漱石は、聴衆である若者たちに向けて「個人主義」の何たるかを語る。それは、自分の個性を発展させるとともに、他人の個性もまた尊重すること。自分の財力や権力を使うにあたっては、それに伴う義務と責任を自覚すること。利己主義とは似て非なる、倫理を伴った個人主義こそが、個人の幸福の基礎となるのだと。さらに漱石は、当時さかんだった国家主義との関係にも触れ、国家の平穏な時代には、徳義心の高い個人主義にこそ重きを置くべきだと論じる。自らの体験に裏打ちされた率直な語り口で、近代人の自立と倫理を説いた、今なお読み継がれる名講演である。
冒頭部(原文より)
――大正三年十一月二十五日学習院輔仁会において述―― 私は今日初めてこの学習院というものの中に這入りました。もっとも以前から学習院は多分この見当だろうぐらいに考えていたには相違ありませんが、はっきりとは存じませんでした。中へ這入ったのは無論今日が初めてでございます。
「私の個人主義」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
私はせっかくのご招待だから今日まかり出て、できるだけ個人の生涯を送らるべきあなたがたに個人主義の必要を説きました。これはあなたがたが世の中へ出られた後、幾分かご参考になるだろうと思うからであります。またそうした手数を尽さないでも、私の本意が充分ご会得になったなら、私の満足はこれに越した事はありません。あまり時間が長くなりますからこれでご免を蒙ります。
「私の個人主義」夏目漱石(青空文庫)
名文
私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。
学習院での講演の一節。西洋の尺度で文学を測って行き詰まった漱石が、留学中の煩悶の末につかんだ「自己本位」を語る。近代日本の個人主義を説いた講演の核心にあたる。
第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。
講演の論旨を三カ条にまとめる箇所の第一条。自己を確立することと他者を尊重することを一つに結び、漱石のいう個人主義を利己主義から分かつ言葉。
原文を読む
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