山羊の歌(中原中也)のあらすじ・登場人物
声に響く中也の第一詩集
- 文字数
- 14,832字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
1934年(昭和9年)12月10日、文圃堂から刊行された中原中也の第一詩集。中也が生前に出版した唯一の詩集で、自ら選んだ作品を「初期詩篇」「少年時」「みちこ」「秋」「羊の歌」などのまとまりに配している。『在りし日の歌』の後記では、本集に収めたのは1924年春から1930年春までの作と説明した。故郷や少年の日への思い、恋、人と交わる難しさが、街や自然の景色、身体の感覚を通して歌われる。「サーカス」の擬音、「汚れつちまつた悲しみに……」の反復のように、意味だけでなく声の響きや間の取り方が、感情を伝える働きを持つ。文語と口語、整った調子と会話のような言い回しが一冊のなかに共存する点も特徴である。完成までには長い編集の時間を要した。個々の詩の親しみやすさに加え、作者がどのように作品を並べたかにも目を向けたい詩集である。
あらすじ
「初期詩篇」「少年時」「みちこ」「秋」「羊の歌」の五章からなる。初期詩篇には望郷と少年期の記憶、都会の夜、ダダイスムの影響を受けた実験的な詩篇が並び、「サーカス」では見世物小屋のブランコに漂う哀愁を擬音語で描く。続く章にも喪失や生活のなかで研ぎ澄まされた抒情がにじみ、「汚れつちまつた悲しみに/今日も小雪の降りかかる」の詩句に象徴されるような、汚辱と諦念のなかにも澄んだ美しさを湛えた心象が繰り返し歌われる。全篇を通じて、少年の無垢な魂が世俗にまみれながらも失われない詩人の相貌が浮かび上がる構成となっている。
冒頭部(原文より)
初期詩篇 春の日の夕暮 トタンがセンベイ食べて 春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです
「山羊の歌」中原中也(青空文庫)
末尾部(原文より)
汝が次なる行為への転調の障げとなるなれば。 IIII ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。
「山羊の歌」中原中也(青空文庫)
名文
汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる
同じ一行を繰り返しながら降り積もっていく、中也の代表作。名づけようのない悲しみを、ただ「汚れつちまつた」とだけ言い置く。
頭倒さに手を垂れて 汚れ木綿の屋蓋のもと ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
代表作「サーカス」の一節。ブランコの揺れをそのまま音にした畳句が、中也の詩のもっとも知られた響きとなった。
私の上に降る雪は 真綿のやうでありました
「生ひ立ちの歌」の書き出し。幼年時から現在まで、自分に降る雪のたとえを変えてゆくことで、中也は自らの半生の移り変わりを歌う。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。