野人生計事(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
清閑なき時代の随筆を語る
- 文字数
- 4,056字
- 読了目安
- 約8分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
芥川龍之介の随筆。「サンデー毎日」に随筆を書けという電報で起こされた書き出しから、清閑がなくても書き飛ばされる「新しい随筆」を皮肉り、野人の暮らしの事を題にすると断って始める。室生犀星が金沢へ帰る前後の思い出、関東大震災後に思い返す浅草の記憶と詩人たちを語る。末尾に(大正十三年一月)とある。
あらすじ
唐の詩の一節「莫問野人生計事」を引き、売文に追われる自分には清閑がないと嘆くところから始まる。随筆は本来、清閑の所産であり、感慨・異聞・考証・芸術的小品の四種があったが、今は筆に任せただけの「純乎として純なる出たらめ」が出現した、と皮肉を述べる。続く「室生犀星」では、陶器と庭いじりを愛する友人が、金沢へ帰るにあたり、つくばいを形見に残していった思い出を綴る。最後の「キユウピツド」では、震災で失われた三つの浅草を挙げ、活動写真やオペラの小屋が並んだ浅草を回想する。オペラの楽屋で見た、失恋して萎れているキューピッド姿の少女の記憶が印象に残る。
冒頭部(原文より)
一 清閑 「乱山堆裡結茅蘆 已共紅塵跡漸疎 莫問野人生計事 窓前流水枕前書」 とは少時漢詩なるものを作らせられた時度たびお手本の役をつとめた李九齢の七絶である。今は子供心に感心したほど、名詩とも何とも思つてゐない。乱山堆裡に茅蘆を結んでゐても、恩給証書に貯金の通帳位は持つてゐたのだらうと思つてゐる。 しかし兎に角李九齢は窓前の流水と枕前の書とに悠悠たる清閑を領してゐる。
「野人生計事」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
N君は無造作に返事をした。 このキユウピツドの出るオペラは喜歌劇だつたのに違ひない。しかし人生は喜歌劇にさへ、――今更そんなモオラルなどを持ち出す必要はないかも知れない。しかし兎に角月桂や薔薇にフツト・ライトの光を受けた思ひ出の中の舞台には、その後もずつと影のやうにキユウピツドが一人失恋してゐる。……
「野人生計事」芥川龍之介(青空文庫)
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