雑筆(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
秋の机辺に書き留めた断章
- 文字数
- 10,532字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
芥川龍之介の随筆。1920(大正9)年の夏から秋にかけての日付を添えて、文人画家の田能村竹田、芭蕉と去来・凡兆の連句、ジョイスの小説、尾崎紅葉の日記といった読書や見聞を、一則ずつ短い文章で書き留めた断章集。宮城の青根温泉で書かれたものも含まれる。芸術の不朽、日本画の写実、作品の粗密と純雑など、同時代の文芸と美術への率直な見方がうかがえる。
あらすじ
「竹田」「芭蕉」「蜻蛉」「子供」「不朽」「流俗」「夢」「理解」など、題を付けた短い断章を日付順に並べた随筆。南画家の田能村竹田の人柄、芭蕉の連句の鋭さ、ジョイスの描く子供、紅葉の日記に見える西洋かぶれなど、読書の感想が続く。青根温泉での蜻蛉や竹の観察、隣室の姉妹、世間に出回る芸術論の誤りを正す一節などの雑記も交じる。後半では、文章は簡潔なほど長持ちすること、流俗は一時代前の真理にしがみつくこと、日本画家が洋画のような写実にこだわる不自然さなどを論じる。最後は、菊池寛の小説は粗であっても雑俗ではないと語り、粗密と純雑を分けて考えるべきだと述べて閉じる。
冒頭部(原文より)
竹田 竹田は善き人なり。ロオランなどの評価を学べば、善き画描き以上の人なり。世にあらば知りたき画描き、大雅を除けばこの人だと思ふ。友だち同志なれど、山陽の才子ぶりたるは、竹田より遙に品下れり。山陽が長崎に遊びし時、狭斜の遊あるを疑はれしとて、「家有縞衣待吾返、孤衾如水已三年」など云へる詩を作りしは、聊眉に唾すべきものなれど、竹田が同じく長崎より、「不上酒閣 不買歌鬟償 周文画 筆頭水 墨余山」の詞を寄せたるは、恐らく真情を吐露せしなるべし。
「雑筆」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
同時に又創作の上から云へば、菊池の小説は菊池の気質と切り離し難い物である あの粗は決して等閑に書き流した結果然るのではない。その故に他の作家、殊に本来密を喜ぶ作家が、妄に菊池の小説作法を踏襲したら、勢雑俗の病に陥らざるを得ぬ。自分なぞは気質の上では、可也菊池と隔つてゐる。だから粗密の好みを云へば、一致しない点が多いかも知れぬ。が、純雑を論ずれば、必しも我等は他人ではない。
「雑筆」芥川龍之介(青空文庫)
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