続澄江堂雑記(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
書画と詩人の小話八則
- 文字数
- 1,913字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
芥川龍之介の随筆。1925(大正14)年の10月下旬から11月下旬にかけての日付を添えた八つの断章で、「澄江堂雑記」の続編にあたる。夏目漱石の書の贋物、庭の苔、号の由来、シラーの頭蓋骨、美人禍、放心の逸話など、日常の観察と読書の小話を短く書き留める。
あらすじ
八つの短い文章からなる。「夏目先生の書」では、本物とも偽物とも言いがたい漱石の署名のある扇に触れる。「霜の来る前」では庭の苔の美しさを書く。「澄江堂」「雅号」では号の由来や、画家や作家の号が個性を映すことを語る。「シルレルの頭蓋骨」は、ゲーテが旧友の頭蓋骨と信じて詩を作ったが、それが別人のものだったという話である。「美人禍」は、ゲーテとショーペンハウアーの双方を悩ませたフォン・ハイゲンドルフ夫人の話。最後の「放心」とその続きでは、ネクタイを忘れて歩いた教師時代の自分や、長崎行きの汽車でパラソルを回していた菊池寛を、互いの放心の逸話として語る。
冒頭部(原文より)
一 夏目先生の書 僕にも時々夏目先生の書を鑑定してくれろと言ふ人がある。が、僕の眼光ではどうも判然とは鑑定出来ない、唯まつ赤な贋せものだけはおのづから正体を現はしてくれる。僕は近頃その贋せものの中に決して贋にものとは思はれぬ一本の扇に遭遇した。成程この扇に書いてある句は漱石と言ふ名はついてゐても、確かに夏目先生の書いたものではない。しかし又句がらや書体から見れば、夏目先生の贋せものを作る為に書いたのではないことも確かである。
「続澄江堂雑記」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
僕は勿論「おい、君」と言つた。すると菊池は苦笑しながら、鄰にゐた奥さんにパラソルを返した。僕は早速文芸論の代りに菊池の放心を攻撃した。菊池の降参したのはこの時だけである。が、長崎を立つ段になると、僕自身うつかり上野屋へ雨外套を忘れて来てしまつた。菊池の嬉しがるまいことか、忌々しくも大笑ひをして曰、「君も亦細心は誇れないね。」
「続澄江堂雑記」芥川龍之介(青空文庫)
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