井原西鶴の名文
井原西鶴の作品から、よく知られた一節を集めました。
9件
好色一代男
「恋は闇といふ事を知らずや。」
井原西鶴『好色一代男』巻一、幼い世之介が灯を消すよう求めて言う言葉。早熟な主人公の色の道の始まりを告げる名文句。
五十四歳まで、たはぶれし女三千七百四十二人、少人のもてあそび七百二十五人手日記にしる。
世之介の生涯の色事を数字で示した一節。たわむれた女三千七百四十二人という途方もない数が、西鶴らしい誇張と諧謔を伝える。
西鶴諸国ばなし
世間の広き事、国々を見巡りて、はなしの種を求めぬ。熊野の奥には、湯の中に鰭振る魚あり、筑前ノ国には、一つをさし荷ひの大蕪あり、豊後の大竹は手桶となり、若狭ノ国に、二百余歳の白比丘尼のすめり、
井原西鶴『西鶴諸国ばなし』(1685年)の序。諸国を巡って集めた不思議な話の種を、湯の中の魚、担ぐほどの大蕪、二百歳の白比丘尼と畳みかける。最後に「人はばけもの」と結ぶ序の、軽快な列挙の部分。
好色一代女
美女は命を断つ斧と古人もいへり。
色道に生きる女の半生を語る一代女の書き出し。美女は命を断つ斧という古い言葉を引き、美しさが身を滅ぼす皮肉を告げる。
好色五人女
春の海しづかに、宝船の浪枕、室津に賑へる大湊なり。
西鶴『好色五人女』巻一「姿姫路清十郎物語」の書き出し。宝船の浪枕と結ぶ、穏やかで華やかな室津の港の描写から恋物語が始まる。
名はお七と言へり。年も十六、花は上野の盛り、月は隅田川の影清く、かかる美女のあるべきものか。
巻四「恋草からげし八百屋物語」で、八百屋の娘お七が登場する一節。上野の花や隅田川の月を引いて、十六歳の美しさをたたえる。
日本永代蔵
始末大明神の御託宣にまかせ金銀を溜むべし。是れ二親の外に命の親なり。
町人の暮らしの指針を語る巻頭。始末(倹約)を神にたとえ、金銀を溜めることを命の親とまで言い切る、西鶴の町人物の書き出し。
天地は万物の逆旅、光陰は百代の過客、浮世は夢幻。
李白の詩文を引いた、人生を旅にたとえる一節。この世は束の間と断ったうえで、だからこそ金銀の力を説く、浮世草子らしい皮肉。
世間胸算用
世の定めとて大晦日は闇なること、天の岩戸の神代以来知れたることなるに、人皆常に渡世を油断して、節季を仕舞ひ兼ね迷惑するは、面々覚悟悪しき故なり。
借金取りが走り回る大晦日の「一日千金」を描く連作の書き出し。節季を越せないのは覚悟が悪いからだと、町人の暮らしを見据える。