歌枕とは

分類
文体・技法
読み
うたまくら

和歌によみこまれてきた由緒ある地名。もとは和歌に用いる語句や、それらを集めた書物(能因法師の『能因歌枕』など)も指したが、今日ではもっぱら歌に詠まれた名所の意で用いられる。吉野の桜、龍田川の紅葉、須磨の月、白河の関、松島というように、その地名を置くだけで特定の景物や心情が呼び起こされる約束ができあがっており、歌人は実際に訪れたことがなくとも、歌枕によって一首を構成することができた。地名が言葉の記憶を蓄えていく仕組みであり、実際の風景よりも歌の世界での姿が優先されることも多い。中世には歌枕をたずねる旅がさかんになり、近世では松尾芭蕉が『おくのほそ道』で白河の関や松島など歌の名所を歴訪して、古人の見た景と自分の目の前の景とを重ね合わせた。歌枕を確かめようと現地をたずねた歌人たちの旅は、紀行文というジャンルを育てる母胎ともなった。地名がそのまま文学の記憶装置となっている点に、日本の詩歌の大きな特色がある。

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