紀行文とは
- 分類
- 形式・ジャンル
- 読み
- きこうぶん
旅の道中で見た風景や人事、その折々の感懐をつづった文章。古くは紀貫之が土佐から京への帰路をかな文字で綴った『土佐日記』(承平5年〔935年〕ごろ)にさかのぼり、中世には阿仏尼が鎌倉へ下った旅を記した『十六夜日記』などが書かれ、近世には松尾芭蕉が俳諧を交えて漂泊の旅を描いた『おくのほそ道』が古典紀行の頂点をなす。近代でも多くの文人が旅にペンを執り、森鴎外の『みちの記』、島崎藤村が信州の自然と暮らしを写生風に写した『千曲川のスケッチ』(明治44年)、和辻哲郎が奈良の古寺と仏像をめぐった清新な『古寺巡礼』(大正8年)、旅を愛した歌人・若山牧水が上州から越後へ山を越える『みなかみ紀行』(大正13年)、芥川龍之介が特派記者として中国各地を歩いた『上海游記』(大正10年)などが生まれた。単なる旅程の記録にとどまらず、異郷の風物を通して書き手の思索や美意識がにじみ出る点に、紀行文の独特の味わいがある。