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みなかみ紀行(若山牧水)のあらすじ・登場人物

旅と酒を愛した歌人の山あるき

若山牧水 1924年(大正13年)7月

文字数
99,123字
読了目安
約3時間18分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 群馬県
  • 長野県

この作品について

歌人・若山牧水の代表的な紀行文集。1924年(大正13年)に刊行された、牧水の第三の紀行文集にあたる。旅と酒をこよなく愛した牧水が、信州から上州、上越の国境の山あいを歩いた道中を、その折々の情緒とともに綴った十二篇を収める。表題作「みなかみ紀行」は、大正十一年の秋、利根川の水源をたずねて信州佐久から旅立ち、浅間の裾野や谷あいの温泉を経めぐる旅の記録で、道すがら詠んだ歌を随所に織り込みながら、山川草木のみずみずしい姿と旅の心細さ・懐かしさを写している。案内記ではなく、心を遣るための旅の情緒を主とした、自然を友とする牧水の真骨頂を伝える一巻である。

あらすじ

表題作「みなかみ紀行」をはじめ十二篇を収めた紀行文集。旅と酒をこよなく愛した牧水が、心を遣るために出かけた旅の道中を、その折々の情緒を主として綴る。表題作では、大正十一年の秋、利根川の水源をたずねて沼津を発ち、信州北佐久の御代田に降り立つところから旅が始まる。佐久新聞社の歌会に出たのち、久闊を叙する友人たちと小諸の懐古園に遊び、星野温泉や軽井沢の蕎麦屋で杯を重ねるうち、牧水は当初の道順を幾度も変えて、より深く山や谷を歩き廻ろうとする。案内記風を嫌い、里数や方角の正確さよりも、渓や森や湯の宿で出会う人々との情愛、道連れとなった馬子や酒の味わいを淡々と写してゆくのが牧水の紀行の身上である。巻末に置かれた「伊豆紀行」では、天城山中で思いがけない雪に降りこめられ、真白に濡れて峠を越えながら詠んだ数首をかきつけて筆を擱く。山川草木のあいだに心を遊ばせる牧水の旅の魅力が、一巻を通じて息づいている。

冒頭部(原文より)

 十月十四日午前六時沼津発、東京通過、其処よりM―、K―、の両青年を伴い、夜八時信州北佐久郡御代田駅に汽車を降りた。同郡郡役所所在地岩村田町に在る佐久新聞社主催短歌会に出席せんためである。駅にはS―、O―、両君が新聞社の人と自動車で出迎えていた。大勢それに乗って岩村田町に向う。高原の闇を吹く風がひしひしと顔に当る。佐久ホテルへ投宿。

「みなかみ紀行」若山牧水(青空文庫)

末尾部(原文より)

 温泉場の裏から直ぐ登り坂となっていた。一里二里と登って漸く人家も断えた頃から思いがけない雪が降り出した。長い萱野の中の坂を登って御料林の深い森の中に入る頃には早や道には白々と積っていた。立枯になった樅、掩い被さる様な杉の木などの打ち続いた森の中に音もなく降り積る雪の眺めは美しくもあり恐ろしくもあった。峠に着いた時には既に七八寸の深さとなっていたが其処の茶屋で飲んだ五六合の酒に元気を出して留めらるるのを断りながら終にその日、天城山の北の麓に在る湯が島温泉まで辿り着いたのであった。その渓端の温泉も無論円やかに深々と雪を被っていた。真白に濡れながら上下七里の峠道を歩き歩き詠んだ歌二三首をかきつけてこの短い紀行文を終る。 冬過ぐとすがれ伏したる萱原にけふ降り積る雪の真白さ 大君の御猟の場と鎮まれる天城越えゆけば雪は降りつゝ 見下せば八十渓に生ふる鉾杉の穂並が列に雪は降りつつ

「みなかみ紀行」若山牧水(青空文庫)

名文

啄木鳥の声のさびしさ飛び立つとはしなく啼ける声のさびしさ

『みなかみ紀行』で、草津から沢渡へ向かう途中、立ち枯れの木が続く野原で詠んだ歌の一首。「声のさびしさ」を重ねる調べに旅の心細さがにじむ。

かりそめにひとつ拾ひつ二つ三つ拾ひやめられぬ栗にしありけり

花敷温泉へ向かう野路で、落ちた栗を拾いながら詠んだ一首。一つのつもりが止まらなくなる素朴な楽しさが、牧水らしい自然な口調で歌われる。

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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