沼津千本松原(若山牧水)のあらすじ・登場人物
松原を守ってほしい
- 文字数
- 3,537字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 静岡県
この作品について
若山牧水が、愛した沼津の千本松原の見事さと、その保存を訴えた随筆。晩年を沼津で過ごした牧水は、この松原の乱伐を憂え、郷土の人々に守るよう呼びかけた。
あらすじ
私が沼津に越してきてもう七年になる。沼津に取り柄はないが、たった一つ私の自慢するものがある、千本松原である、と筆者は始める。千本松原ほど見事な松が揃い、これほどの大きさと豊かさを持つ松原は、他にないと思う。狩野川の川口に起こり、千本浜、片浜、原、田子の浦の海岸に沿って、西の富士川の川口に及び、長さは四里に近く、幅は百間以上ある。その松が伐られれば、日本にはもうこの松原は見られない。静岡県にも、県庁にも、沼津市にも、具眼の士のあることを信じ、眼前の些事にとらわれず、百年の計を建ててほしいと祈る。末尾に九月六日、老松の梢を仰ぎつつと記される。
冒頭部(原文より)
私が沼津に越して来ていつか七年経つた。或はこのまゝ此処に居据わることになるかも知れない。沼津に何の取柄があるではないが、唯だ一つ私の自慢するものがある。千本松原である。 千本松原位ゐ見事な松が揃つてまたこの位ゐの大きさ豊さを持つた松原は恐らく他に無いと思ふ。狩野川の川口に起つて、千本浜、片浜、原、田子の浦の海岸に沿ひ徐に彎曲しながら遠く西、富士川の川口に及んでゐる。長さにして四里に近く、幅は百間以上の広さを保つて続いてをる。この全体を千本松原といふは或は当らないかも知れないが、而も寸分の断え間なく茂り合つて続き渡つてゐるのである。而して普通いふ千本松原、即ち沼津千本浜を中心とした辺が最もよく茂つて居る。松は多く古松、二抱へ三抱へのものが眼の及ぶ限りみつちりと相並んで聳え立つてゐるのである。ことに珍しいのはすべて此処の松には所謂磯馴松の曲りくねつた姿態がなく、杉や欅に見る真直な幹を伸ばして矗々と聳えて居ることである。
「沼津千本松原」若山牧水(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は無論その松原の蔭に住む一私人としてこの事を嘆き悲しむ。が、そればかりではない。比類なき自然のこの一つの美しさを眺め楽しむ一公人として、またその美しさを歌ひ讚へて世人と共に楽しまうとする一詩人として、限りなく嘆き悲しむのである。まつたく此処が伐られたらば日本にはもう斯の松原は見られないのである。豈其処の蔭に住む一私人の嘆きのみならむやである。 静岡県にも、県庁にも、また沼津市にも、具眼の士のある事を信ずる。而して眼前の些事に囚はれず徐に百年の計を建てゝ欲しいことを請ひ祈るものである。 (九月六日、徐ろに揺るる老松の梢を仰ぎつゝ)
「沼津千本松原」若山牧水(青空文庫)
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