愛の詩集(室生犀星)のあらすじ・登場人物
貧しさの底からうたう、愛と祈り
- 文字数
- 34,759字
- 読了目安
- 約1時間10分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
室生犀星の第一詩集。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の「抒情小曲集」と同じ年に出た、口語自由詩による愛と祈りの詩集である。亡き父に捧げられ、ふところに抱きつづけた一冊のバイブルから語り起こされる。貧困と孤独のなかで書きためられた詩は、素朴な言葉で人への愛を、そして自らを支えた信仰を歌う。
あらすじ
「みまかりたまひし父上におくる」の献辞に続いて、犀星は自分の部屋にある一冊のよごれたバイブルの話をする。厚織更紗で表紙をつけ、背に羊の皮をはった NEW TESTAMENT。詩が一つとして世に現れなかった暗黒時代、寒さと飢えと病気と戦いながら、彼はこの本をふところに苦しんだり歩いたりしていた。いまその本を手に取ると、長い讃歎と吐息と自分に対する勝利の思い出に震え上がるのだ、と。詩集はそこから始まる。「をさなき思ひ出」では、山に登り、花のあいだで寝ころんだ少年の日と、海を目指してとぼとぼ歩きつづけた日々が回想される。「孝子実伝」は父を負う者の姿を、ほかの詩篇は都会の片隅で働き、苦しみ、それでも人を愛そうとする者の心をうたう。犀星が愛読したドストエフスキーの言葉が随所に引かれ、末尾の散文では「虐げられし人々」のネルリへの思いが切々と語られる。あの人の永い苦闘、隠忍、貧窮、屈辱、そして山のような大きさ——それらを思えば、ほんとうに生きられる、たのしみがある。「神よ、この美しい世界にたいして私をもなほ加へて下さるやう」という祈りで、この詩集は閉じられる。
冒頭部(原文より)
みまかりたまひし父上におくる いまは天にいまさむ うつくしき微笑いま われに映りて、我が眉みそらに昂る……。 私の室に一冊のよごれたバイブルがある。椅子につかふ厚織更紗で表紙をつけて背に羊の皮をはつて NEW TESTAMENT. とかいて私はそれを永い間持つてゐる。十余年間も有つてゐる。それは私の室の美しい夥しい本の中でも一番古くよごれてゐる。
「愛の詩集」室生犀星(青空文庫)
末尾部(原文より)
これらを思へば、ほんとうに生きられる。たのしみがある。神よ、この美しい世界にたいして私をもなほ加へて下さるやう。私をもなほ彼の如く本心につねに正純であるべきことをお示し下さるやう。
「愛の詩集」室生犀星(青空文庫)
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