愛と婚姻(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
婚姻は誰のためのめでたさかと問う
- 文字数
- 2,669字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
泉鏡花が明治28年(1895年)に発表した短い論。婚礼を「めでたし」と祝う世間の常識に異を唱え、女性にとって真に恐るべき人生は婚姻の「後」にあると説く、若き鏡花の情熱的で逆説的な一文である。
あらすじ
媒妁人は「めでたし」と言い、舅姑も親類も知己朋友も、皆こぞって「めでたし」と新夫婦の婚姻を祝う——だが、婚礼は果たしてめでたいのか。若き泉鏡花は、この一文で世間の常識に鋭く切り込む。小説では男女の結婚が「最もめでたし」とされる。それは、彼らの苦難がすべて結婚以前に経過し去って、あとは平和な歳月が続くという前提があるからだ。しかし現実の女性にとって、忌むべく恐るべき人生は、婚姻の「以前」ではなく「以後」にあるのだ、と鏡花は説く。慈愛深い父母の掌中を出た女が向き合う舅姑、夫、小姑、そして社会——それらは果たして彼女に幸福をもたらすのか。「新夫婦其者には何のめでたきことあらむや」。婚姻とは、社会のために女が身を犠牲に供することにほかならない、と結ぶ——愛と結婚の欺瞞を撃つ、若き鏡花の情熱と逆説にみちた論である。
冒頭部(原文より)
媒妁人先づいふめでたしと、舅姑またいふめでたしと、親類等皆いふめでたしと、知己朋友皆いふめでたしと、渠等は欣々然として新夫婦の婚姻を祝す、婚礼果してめでたきか。 小説に於ける男女の主客が婚礼は最めでたし。何となれば渠等の行路難は皆合の事ある以前既に経過し去りて、自来無事悠々の間に平和なる歳月を送ればなり。
「愛と婚姻」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
新夫婦其者には何のめでたきことあらむや、渠等が雷同してめでたしといふは、社会のためにめでたきのみ。 再言す、吾人人類が因りてもて生命を存すべき愛なるものは、更に婚姻によりて得らるべきものにあらざることを。
「愛と婚姻」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。