アイヌ神謡集(知里幸恵)のあらすじ・登場人物
銀の滴降る降るまわりに
- 幻想
- 文字数
- 72,873字
- 読了目安
- 約2時間26分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 北海道
この作品について
アイヌの少女・知里幸恵が、祖母たちの語るカムイユカラ(神謡)十三編をローマ字で書きとめ、自ら日本語に訳した一冊。アイヌ自身の手で編まれた最初のアイヌ文学の書物である。「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました」に始まる序文は、失われゆく民族の言葉と暮らしへの痛切な訴えとして名高い。原稿を完成させた翌日、幸恵は19歳で世を去った。
あらすじ
「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました」——序文は、熊を狩り魚を漁り、四季とともに歌い暮らしていた先祖の自由な生活を描くところから始まる。だがその平和はもう昔のこと。夢は破れて幾十年、山野は村となり村は町となって、残された同族は「亡びゆくもの」という悲しい名を負わされている。せめて先祖が語り興じた物語のいくつかを書き残したい——そう願って、知里幸恵は十三編の神謡を書きとめた。収められているのは、梟の神が自ら歌う「銀の滴降る降るまわりに」、狐の神の「トワトワト」、兎の神の「サンパヤ テレケ」、沼貝の神の物語など、動物や自然の神々が「私」となって自分の体験を語る一人称の歌である。梟の神は、貧しい少年の放った一本の矢に自らあたって彼の家へ降り、家に富をもたらす。悪い心を持った者は罰せられ、慈しみ深い者は報われる——素朴な因果の物語のなかに、あらゆるものに魂を認めるアイヌの世界観が息づいている。全編に「シロカニペ ランラン ピシカン」といった折り返しの句がくり返され、原文のローマ字表記と対訳が並べられて、口承の響きがそのまま伝わるよう編まれている。
冒頭部(原文より)
その昔この広い北海道は,私たちの先祖の自由の天地でありました.天真爛漫な稚児の様に,美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は,真に自然の寵児,なんという幸福な人だちであったでしょう. 冬の陸には林野をおおう深雪を蹴って,天地を凍らす寒気を物ともせず山又山をふみ越えて熊を狩り,夏の海には涼風泳ぐみどりの波,白い鴎の歌を友に木の葉の様な小舟を浮べてひねもす魚を漁り
「アイヌ神謡集」知里幸恵(青空文庫)
末尾部(原文より)
「まあかわいそうに,大へん暑くて沼貝たちの 寝床も乾いてしまって水を欲しがって いるのだね,どうしたのでしょう 何だか踏みつけられでもした様だが……」と言いつつ 私たちみんなを拾い集めて蕗の葉に 入れて,きれいな湖に入れてくれました. 清い冷水でスッカリ元気を恢復し 大へん丈夫になりました. と,一つの沼貝が物語りました.
「アイヌ神謡集」知里幸恵(青空文庫)
名文
その昔この広い北海道は,私たちの先祖の自由の天地でありました.
十九歳で世を去った知里幸恵が、アイヌの口承文芸を自ら筆録し訳した書の序の冒頭。失われゆく民族の言葉への痛切な思いが流れる。
原文を読む
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