悪魔の舌(村山槐多)のあらすじ・登場人物
貴様の舌は悪魔の舌だ
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 8,639字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
夭折の画家・村山槐多が残した小説の代表作。ある五月の夜、「自分」のもとに友人の青年詩人・金子鋭吉から意味の取れない電報が届く。「クダンサカ三〇一カネコ」。九段坂へ駆けつけた「自分」が知ったのは、金子が自宅で火箸を胸に突き立てて死んだという報せだった。数字の謎を解いて見つけ出した黒い油紙包には、金子の手記が収められている。異様に分厚い唇を持ち、えたいの知れない変物として通っていた詩人の正体——彼の舌に起きた変異と、その舌が求めたものとは。怪奇と耽美が入り混じる、槐多らしい一編。
あらすじ
五月初めの晴れた夜、「自分」は「クダンサカ三〇一カネコ」という意味不明の電報を受け取る。金子鋭吉は二年前に奇人ばかりの宴会で知り合った青年詩人で、緑青に食われた銅の棒のような異様に厚い唇と、えたいの知れない生活とで知られる男だった。九段坂で待っても誰もおらず、富坂の家を訪ねると、金子は火箸で心臓を突き刺して自殺していた。「自分」は電報の数字が坂の溝の石蓋の数であることに気づき、下から三百一枚目の蓋の下から黒い油紙包を掘り出す。中にあったのは一冊の手記だった。——飛騨の材木商の妾腹に生まれた金子は、幼い頃から風変わりな子で、壁土やなめくじ、毛虫を口にする奇癖を持っていた。母の死後に患った病から回復した鎌倉で、彼は食事がまるで旨くないことに気づく。鏡をのぞくと、自分の舌が三寸五分に伸び、一面に針の生えた恐ろしい肉片に変わっていた。鏡の中の悪魔が告げる。悪魔の舌は悪魔の食物でなければ満足しない、と。伊豆の寒村にこもって異常な食生活を重ねた彼の欲望は、やがて越えてはならない一線へ向かってゆく。そして手記の最後には、彼が死を決した夜の出来事が記されていた。
登場人物
- 自分 語り手。金子鋭吉の数少ない友人で、電報の謎を解いて手記を見つける
- 金子鋭吉 二十七歳の青年詩人。異様に厚い唇を持ち、秘密主義でえたいの知れない生活を送っていた
- 金子五郎 金子の異母弟。右足の裏に三日月の形をした斑紋がある
冒頭部(原文より)
(一) 五月始めの或晴れた夜であつた。十一時頃自分は庭園で青い深い天空に見入つて居ると突然門外に当つて『電報です。』と云ふ声がする。受取つて見ると次の数句が記されてあつた、『クダンサカ三〇一カネコ』『是は何だらう。三〇一と云ふのは。』実に妙に感じた。金子と云ふのは友人の名でしかも友人中でも最も奇異な人物の名であるのだ。
「悪魔の舌」村山槐多(青空文庫)
末尾部(原文より)
あゝ俺はもう生きて居られなくなつた。友よ俺が書き残さうとした事は以上の事である。どうぞ俺を哀れんで呉れ。 文書は此で終つて居た。字体や内容から見ても自分は金子の正気を疑はざるを得なかつた。金子の死体を検査した時その舌は記述の通り針を持つて居たが、悪魔の顔と云ふのは恐らく詩人の幻想に過ぎまい。
「悪魔の舌」村山槐多(青空文庫)
原文を読む
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