雨ばけ(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
雨の夕べの油売り
- 文字数
- 2,626字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1923年(大正12年)11月、雑誌「随筆」に載った小品。雨の夕暮れに現れる怪を愛でる気分で、中国の官人が油売りの首を落としてしまう奇談を、筆者が読んだ話として紹介する。語りは淡々としているが、最後に「何うも嘘らしい」と言いつつ、雨の降る山家の里の情景に心を寄せる。
あらすじ
雨もよいの暮れ方、中国のある県の官人が、従者を連れて法事に出向く途中の細道で、青牛にまたがって油を売り歩く男に出会う。「とう、とう、とう」と低く呼ぶ男が道をあけないので、怒った従者が突くと、笠ごと男の首がころりと落ちた。ところが首のない胴体は牛を駆けさせ、大きな屋敷の門内へ消えてしまう。屋敷の者が槐の木の根元を掘ると、空洞に釣瓶と大きな茸、そして蝦蟇がいた。蝦蟇が牛、茸が油売りで、釣瓶にたまった樹液のようなものが油であったという。この油を買った者に被害はなかった、と記されている。筆者は、これを読んで豆腐屋かと早合点した、と述べつつ、この話が好きだと言い、嘘らしいと思いながら、寂しい川の流れとともに降る雨とそのしぐれを思い浮かべる。
冒頭部(原文より)
あちこちに、然るべき門は見えるが、それも場末で、古土塀、やぶれ垣の、入曲つて長く続く屋敷町を、雨もよひの陰気な暮方、その県の令に事ふる相応の支那の官人が一人、従者を従へて通り懸つた。知音の法筵に列するためであつた。 ……来かゝる途中に、大川が一筋流れる……其の下流のひよろ/\とした――馬輿のもう通じない――細橋を渡り果てる頃、暮六つの鐘がゴーンと鳴つた。遠山の形が夕靄とともに近づいて、麓の影に暗く住む伏家の数々、小商する店には、早や佗しい灯が点れたが、此の小路にかゝると、樹立に深く、壁に潜んで、一燈の影も漏れずに寂しい。
「雨ばけ」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は此の話がすきである。 何うも嘘らしい。…… が、雨である。雨だ。雨が降る……寂しい川の流とともに、山家の里にびしよ/\と降る、たそがれのしよぼ/\雨、雨だ。しぐれが目にうかぶ。……
「雨ばけ」泉鏡花(青空文庫)
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