アメリカ独立宣言(ジェファーソン)のあらすじ・登場人物
諭吉が漢文調で訳した独立宣言
- 社会
- 翻訳
- 文字数
- 2,486字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
1776年7月4日、イギリスからの独立を決めた北アメリカ13植民地の大陸会議が採択した宣言を、福沢諭吉が訳したもの。宣言の起草はトマス・ジェファーソンが中心になって行った。福沢は幕府の使節団に加わって欧米を見聞したのち、西洋の政治・制度を紹介する『西洋事情』初編(1866年・慶応2年)を著し、その「亜米利加合衆国」の項に「独立ノ檄文」としてこの全文を訳載した。これが日本で最初の独立宣言の訳とされる。原文の「権利」に「通義」の語を当てるなど、まだ訳語の定まらない時代に、生命・自由・幸福追求の権利や、人民が政府を改め倒す権利という考え方を、漢文訓読調のカタカナ交じり文で伝えている。英国王の失政を「○」で区切って列挙していく形も原文の構成をよく写しており、幕末の日本人が西洋の政治思想に初めて触れた文章として読むことができる。
あらすじ
一つの人民が他国の支配を離れて独立の国を建てるときは、その理由を述べて世界に布告しなければならない、と書き起こす。天は人を等しく生み、生命を保ち自由を求め幸福を祈るという、動かすことのできない「通義」を与えた。政府はこの通義を固めるために立てられるものであり、政府がその趣旨に背くときは、人民がこれを改め、あるいは倒して新しい政府を立てるのも人民の通義だと説く。軽々しく政府を変えるべきではないが、暴政が続くならそれを廃して将来の安全を固めるのは人の権利であり義務でもあるとして、今の諸州がまさにその状態にあると述べる。続いて、良法の承認を拒み、議会をたびたび解散し、裁判権を奪い、平時に常備軍を置き、同意のない課税を行い、海岸を荒らし都市を焼き、外国の傭兵を送り込んだなど、英国王の暴政を一つずつ挙げていく。植民地側はへりくだって請願を重ね、英国の人民にも同胞として訴えてきたが聞き入れられなかったため、やむなく交わりを絶つと述べる。最後に、合衆国の代表者として、諸州は独立の国であり英国の支配を受けないこと、戦争・講和・条約・貿易など独立国の行うすべてのことを行う全権を持つことを布告し、天の助けを信じて命をかけてこれを守ると誓う。
冒頭部(原文より)
人生已ムヲ得ザルノ時運ニテ、一族ノ人民、他国ノ政治ヲ離レ、物理天道ノ自然ニ従テ世界中ノ万国ト同列シ、別ニ一国ヲ建ルノ時ニ至テハ、其建国スル所以ノ原因ヲ述ベ、人心ヲ察シテ之ニ布告セザルヲ得ズ。 天ノ人ヲ生ズルハ億兆皆同一轍ニテ、之ニ附与スルニ動カス可カラザルノ通義ヲ以テス。即チ其通義トハ人ノ自カラ生命ヲ保シ自由ヲ求メ幸福ヲ祈ルノ類ニテ、他ヨリ之ヲ如何トモス可ラザルモノナリ。人間ニ政府ヲ立ル所以ハ、此通義ヲ固クスルタメノ趣旨ニテ、政府タランモノハ其臣民ニ満足ヲ得セシメ初テ真ニ権威アルト云フベシ。政府ノ処置、此趣旨ニ戻ルトキハ、則チ之ヲ変革シ或ハ之ヲ倒シテ、更ニ此大趣旨ニ基キ、人ノ安全幸福ヲ保ツベキ新政府ヲ立ルモ亦人民ノ通義ナリ。是レ余輩ノ弁論ヲ俟タズシテ明了ナルベシ。
「アメリカ独立宣言」ジェファーソン(青空文庫)
末尾部(原文より)
故ニ亜米利加合衆国ノ名代人タル我輩、其論説ノ正否ヲ世界中ノ公評ニ質サンガ為メ、コヽニ会同シテ、州内良民ノ名ニ代リ州内良民ノ権ヲ藉リ、謹テ次件ヲ布告ス。合衆諸州ハ固ヨリ独立スルノ理ヲ以テ独立シ、英国ト交ヲ絶チ、英国ノ支配ヲ受ケズ。固ヨリ之ト離別スルノ理ヲ以テ之ト離別シ、且既ニ不覊独立ノ国ト為リタルガ故ニ、或ハ師ヲ出シ或ハ和睦ヲ議シ、或ハ条約ヲ結ビ或ハ貿易ヲ為ス等、都テ独立国ニ行フベキ事件ハ我国ニ於テモ之ヲ施行スルノ全権アリ。○右布告ノ趣旨ハ、余輩天道ノ扶助ヲ固ク信ジテ、幸福ト栄名ヲ此一挙ニ期シ、死ヲ以テ之ヲ守ルモノナリ。
「アメリカ独立宣言」ジェファーソン(青空文庫)
名文
天ノ人ヲ生ズルハ億兆皆同一轍ニテ、之ニ附与スルニ動カス可カラザルノ通義ヲ以テス。即チ其通義トハ人ノ自カラ生命ヲ保シ自由ヲ求メ幸福ヲ祈ルノ類ニテ、他ヨリ之ヲ如何トモス可ラザルモノナリ。
「すべての人は平等に造られ」に始まる独立宣言の核心部を、福沢諭吉が漢文調で訳した一節。生命・自由・幸福の追求を「通義」(権利)と訳している。
政府ノ処置、此趣旨ニ戻ルトキハ、則チ之ヲ変革シ或ハ之ヲ倒シテ、更ニ此大趣旨ニ基キ、人ノ安全幸福ヲ保ツベキ新政府ヲ立ルモ亦人民ノ通義ナリ。
政府が人民の権利を守らないとき、それを改め倒して新しい政府を立てるのも人民の権利だと述べる一節。独立の正当性を支える論理の要となる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。