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人形の家(イプセン)のあらすじ・登場人物

私は人形の衣裳をぬぐ

  • 家族
  • 社会
  • 翻訳

イプセン 訳者 島村抱月 1910年(明治43年)1月 「早稲田文学」

文字数
69,048字
読了目安
約2時間18分
表記
旧字旧仮名

この作品について

島村抱月によるイプセン「人形の家」(1879年)の翻訳。明治43年(1910年)1月の「早稲田文学」に掲載され、のちに小訂正を加えて刊行された。夫に愛玩される「人形妻」であることに気づいた妻ノラが、三人の子を残して家を出るまでの三幕。明治44年、抱月らの文芸協会が帝国劇場でこれを上演し、松井須磨子がノラを演じたことは、日本に女優と新劇が根づく出発点となり、青鞜の女性たちを刺激して「ノラ問題」を巻き起こした。抱月自身による長い解説も別に収録している。

あらすじ

クリスマスの前日、弁護士ヘルマーの家。夫は年明けに銀行の頭取となることが決まり、妻ノラは買い物の包みを抱えて浮き浮きと帰ってくる。ヘルマーは彼女を「ひばりちゃん」「りすちゃん」と呼び、浪費を軽くたしなめては小遣いを与える。だがノラには夫の知らない秘密があった。結婚まもなく夫が重病になったとき、療養のイタリア旅行の費用を、亡父の名を借りた証書で内密に借りていたのである。以来ノラは、写字の内職などで少しずつ返済を続けてきた。その金を貸したのは、いま銀行でヘルマーの下にいるクログスタッドだった。過去の不始末から解雇されそうになった彼は、証書の署名が偽造であることを盾にノラを脅し、職を守るよう夫に取りなせと迫る。ノラは頼み込むが、ヘルマーは体面を理由に取り合わない。追い詰められたノラは仮装舞踏会のタランテラを狂ったように踊って夫の目をそらし、時を稼ぐ。やがてクログスタッドの告発の手紙が郵便受けに落ちる。ノラは「奇蹟」を待った——夫が自分の罪をすべて引き受けてくれるという奇蹟を。だが手紙を読んだヘルマーが口にしたのは、偽善者、犯罪者の娘、私の幸福も名誉も台なしだ、という罵りだった。子供の教育も任せられぬ、体裁だけは夫婦のままでいろ、と。ところが、心を入れかえたクログスタッドが証書を返してくる。「助かった!」と叫んだヘルマーは、たちまち態度を翻してすべてを許すと言う。そのときノラは舞踏服を脱ぎ、日常着に着替えて夫の前に坐る。八年のあいだ二人はまじめに話し合ったことが一度もなかった、私は父の家では人形子で、あなたの家では人形妻だった、そして子供たちが私の人形になった——そう告げて、彼女は自分自身と世間とを知るために家を出てゆく。あとに残されたヘルマーが「奇蹟、奇蹟――」とつぶやくところへ、下から重い戸を閉じる響きが聞こえる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 居心地よく趣味に富んで、それで贅澤でない設備の一室、奧、右手は廊下へ通ふ扉、左手はヘルマーの書齋に通ふ扉、それから前によつて窓、窓の傍に小さい圓テーブル、二三脚の肱掛椅子、小さい一臺のソファ。双方の壁には版畫が懸つてゐる。置棚には陶器、骨董品など、また見事な裝釘の書物を詰めた小さな本箱が据ゑてある。敷物は絨氈、ストーヴには火が燃えてゐる冬の日。廊下の方でベルが鳴ると、すぐ外の扉のあく音がして、ノラがはしやいだ樣子で鼻唄を唄ひながら入つてくる。

「人形の家」イプセン(青空文庫)

末尾部(原文より)

ノラ (旅行鞄を取りながら)それは、あなた、そんなことの出來る時には、本當の奇蹟が現はれなくちやなりますまい。 ヘルマー 本當の奇蹟とは? ノラ 私達が二人ともすつかり變つて――あゝもう、私、奇蹟なんか信じない。 ヘルマー けれども私は信ずるよ。私達がすつかり變つて―― ノラ 二人の仲が本當の結婚にならなくてはなりません。左樣なら。 (ノラ出て行く) ヘルマー (顏を兩手に埋めて扉の傍の椅子に沈む)ノラ! ノラ! (見廻はして立上る)誰もゐない。行つてしまつた(一の希望が吹き込まれてくる)あゝ! 奇蹟、奇蹟―― (下から重い戸を閉ぢる響が聞える) 幕

「人形の家」イプセン(青空文庫)

名文

ヘルマー 何よりか第一に、お前は妻であり母である。 ノラ そんなことはもう信じません。何よりも第一に私は人間です。丁度あなたと同じ人間です――少くともこれから、さうならうとしてゐるところです。

終幕、家を出ようとするノラが夫ヘルマーに答える台詞。妻であり母である前に、まず一人の人間だという宣言は、女性解放の象徴として明治末の日本でも大きな反響を呼んだ。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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