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アンドロギュノスの裔(渡辺温)のあらすじ・登場人物

恋の勝負は、造化主の意思の外に

  • 恋愛
  • 風刺

渡辺温 1929年(昭和4年)8月 「新青年」

文字数
5,746字
読了目安
約11分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1929年(昭和4年)「新青年」に発表された渡辺温の短編。二十七歳で急逝した早世の作家の代表作であり、その名は死後に編まれた作品集の書名ともなった。アナトール・フランスの魔女譚と、プラトンの語る「アンドロギュノス」——かつて男女が一体であったという神話を枕に、恋の適偶とはどこまで偶然でしかないかを軽やかに説き起こし、そこから一組の男女の他愛のない賭けの顛末へと落としてみせる。洒脱な語り口と乾いた皮肉に、この作家の資質がよく現れている。

あらすじ

哲人アビュレの故郷マドーラに、男の髪の毛を焼いて意中の人を寝床へ呼び寄せる魔法使いの女がいた。あるとき彼女は若者に想いをかけたが、下婢に欺かれて、若者の髪のかわりに居酒屋の羊皮の革袋の毛を燃してしまう。すると夜半、酒の溢れた革袋が街を横切って魔女の家の扉口まで飛んで来た——アナトール・フランスの小説に読んだこの話から、語り手は思いをめぐらせる。魔法をもってしてもままならぬためしがある。ましてや、人間がかつて肢を八本もっていたアンドロギュノスの昔に還りたいという本能だけを頼りにするなら、幾千万の男と幾千万の女の適偶もまた幾千万でしかない。恋の勝負は造化主の意思の外にあるのだ。そう説いたうえで語られるのは、Y君という一人の男が、女たちの仕掛けた賭けの的にされていたという顛末である。すべてを知ったY君は、紙入れごと女の手に握らせて帰り、それから間もなく、幼なじみの帽子工場の娘と結婚して、最も善良な夫になったという。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ――曾て、哲人アビュレの故郷なるマドーラの町に、一人の魔法をよく使う女が住んでいた。彼女は自分が男に想いを懸けた時には、その男の髪の毛を或る草と一緒に、何か呪文を唱えながら、三脚台の上で焼くことに依って、どんな男をでも、自分の寝床に誘い込むことが出来た。

「アンドロギュノスの裔」渡辺温(青空文庫)

末尾部(原文より)

『いいえ、いくらでもないの。――あなたを口説き落すことは、もう永いこと、あたしたちの賭けだったんですもの。……』  Y君は、併し、幾許も入ってはいなかったが紙入れごと、彼女の手の中に握らせて帰った。  Y君は、それから間もなく、小さい時から知り合いの、帽子工場に働いている娘と結婚して、最も善良な夫になったと云う。

「アンドロギュノスの裔」渡辺温(青空文庫)

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