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算盤が恋を語る話(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

算盤の玉に忍ばせた恋文

  • 恋愛
  • 風刺

江戸川乱歩 1925年(大正14年)3月 「写真報知」

文字数
8,096字
読了目安
約16分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

造船会社の会計係が、同じ部署の若い女事務員へ思いを伝えるために、算盤の玉を使った暗号通信を試みる掌編。「写真報知」1925年3月15日号に発表。内気な男の恋と、毎朝同じ金額を弾いて待つ執拗な工夫を、語りかける丁寧な文体で描く。探偵小説らしい暗号の趣向を、恋愛の場面に持ち込んだ軽い味わいの一編。

あらすじ

造船会社の会計係Tは、三十近くになるまで恋をしたことがない内気な男である。助手を務める若い女事務員S子への思いを、断られても恥をかかずに済む形で伝えようと、毎朝S子の机に算盤を置き、同じ金額を弾いておくことを始める。会計部では職工の姓名をいろは順、さらに五十音の行と段で仕分けるので、誰もが五十音の位置を空んじている。Tはそれを逆に使い、数字を仮名に読み替える暗号を考えたのだった。最初の金額は「いとしききみ」を表していた。二週間ほどたってS子が算盤を気にし、顔を赤らめる様子に手応えを得たTは、続けて待ち合わせの場所「樋の山」、さらに「今日帰りに」と通信を重ねる。退社時、S子の机には「ゆきます」を表す金額の算盤が置かれていた。Tは小山の遊園地へ駆けつけ、夜まで待ち続けるが、彼女は現れない。不安になって会社へ引き返し、S子の原価計算簿を開いてみると、帳尻の締め高は暗号と一致していた。算盤の返事は、彼女が帳簿を締めて片付け忘れた数字にすぎなかったのである。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ○○造船株式会社会計係のTは今日はどうしたものか、いつになく早くから事務所へやって来ました。そして、会計部の事務室へ入ると、外とうと帽子をかたえの壁にかけながら、如何にも落ちつかぬ様子で、キョロキョロと室の中を見まわすのでした。  出勤時間の九時に大分間がありますので、そこにはまだたれも来ていません。沢山並んだ安物のデスクに白くほこりのつもったのが、まぶしい朝の日光に照し出されているばかりです。

「算盤が恋を語る話」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

 余りのことにあっけにとられた彼は、一種異様な顔つきで、ボンヤリとそののろわしい数字を眺めていました。総ての思考力を失った彼の頭の中には、彼の十数日にわたる惨憺たる焦慮などには少しも気づかないで、あの快活な笑い声を立てながら、暖かい家庭で無邪気に談笑しているS子の姿がまざまざと浮んで来るのでした。

「算盤が恋を語る話」江戸川乱歩(青空文庫)

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