一夕話(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
木馬の上で語る人生論
- 風刺
- 恋愛
- 文字数
- 5,922字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
芥川龍之介の短編。日比谷の中華料理店に集まった寄宿舎時代の旧友たちの宴席で、弁護士の藤井が浅草での珍談を披露し、続けて医師の和田が、ある芸者と通人の旦那をめぐる自分の考えを語る。座談の形で進み、笑い話から、「風流」と「猛烈な情熱」をめぐる議論へ話題が移っていく。「サンデー毎日」1922(大正11)年7月号に発表。
あらすじ
六月の雨の夜、日比谷の陶陶亭の二階に、同じ寄宿舎にいた六人の中年男が集まっている。弁護士の藤井は、豪傑だった医者の和田が柳橋の芸者・小えんと知り合いだったと言い立て、浅草で和田と回転木馬に乗った日、小えんが自分ではなく和田に笑いかけていたと面白おかしく話す。和田は、小えんは友人の実業家・若槻の囲い者だったと打ち明ける。若槻は俳句も書もこなす通人で、芸事も教養も仕込んだが、小えんは浪花節語りの男と通じて別れたという。和田は、通人は上品でも猛烈な恋愛や創造の歓喜を知らず、周囲の人間を俗にするだけだと批評し、小えんは実生活の木馬から飛び下りたのだと擁護する。しかし話し終えた和田が一座を見回したとき、藤井は円卓に首を垂れて、すっかり眠り込んでいた。
冒頭部(原文より)
「何しろこの頃は油断がならない。和田さえ芸者を知っているんだから。」 藤井と云う弁護士は、老酒の盃を干してから、大仰に一同の顔を見まわした。円卓のまわりを囲んでいるのは同じ学校の寄宿舎にいた、我々六人の中年者である。場所は日比谷の陶陶亭の二階、時は六月のある雨の夜、――勿論藤井のこういったのは、もうそろそろ我々の顔にも、酔色の見え出した時分である。
「一夕話」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「もしまた幸福になるとすれば、――いや、あるいは若槻の代りに、浪花節語りを得た事だけでも、幸福は確に幸福だろう。さっき藤井がいったじゃないか? 我々は皆同じように、実生活の木馬に乗せられているから、時たま『幸福』にめぐり遇っても、掴まえない内にすれ違ってしまう。もし『幸福』を掴まえる気ならば、一思いに木馬を飛び下りるが好い。――いわば小えんも一思いに、実生活の木馬を飛び下りたんだ。この猛烈な歓喜や苦痛は、若槻如き通人の知る所じゃない。僕は人生の価値を思うと、百の若槻には唾を吐いても、一の小えんを尊びたいんだ。 「君たちはそう思わないか?」 和田は酔眼を輝かせながら、声のない一座を見まわした。が、藤井はいつのまにか、円卓に首を垂らしたなり、気楽そうにぐっすり眠こんでいた。
「一夕話」芥川龍之介(青空文庫)
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