律子と貞子(太宰治)のあらすじ・登場人物
姉と妹どちらを選ぶ
- 恋愛
- 風刺
- 文字数
- 5,325字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 山梨県
この作品について
太宰治が1942(昭和17)年2月に『若草』に発表した短編。徴兵検査で丙種になった大学生の三浦君が、旅館の姉妹のどちらと結婚するかを語り手に相談する。にぎやかな妹と控えめで世話好きな姉の姿を軽妙に描き、聖書のマルタとマリヤの一節を添えて、読者に問いを投げかけて終わる。
あらすじ
大学を卒業して故郷の甲府へ帰り、徴兵検査を受けた三浦憲治君は、極度の近視のために丙種だったと語り手に報告する。田舎の中学校の先生になることは決まっているが、結婚は二人の娘のどちらにするか迷っていると、羨むべき艶聞を打ち明ける。相手は下吉田町の旅館の姉の律子と妹の貞子で、どちらも遠縁にあたり、三浦君を「兄ちゃん」と呼ぶ間柄である。丙種を慰める妹の手紙をなつかしく思った三浦君は、気晴らしに旅館を訪ねる。町で出会うと、貞子はころげるように走ってきて息つく間もなく喋り続け、姉の律子は離れて立ち、宿の用事を理由に豆腐屋へ寄る。翌日、バスの停留所で貞子は船津まで見送ると言い張り、律子も小声で「私も、行く」と言う。バスの中では三人とも他人のふりをし、船津で律子は静かに降りるが、貞子は走り去るバスを追いかけて「兄ちゃん!」と叫ぶ。語り手は、自分なら迷わないがと言いながら、聖書のマルタとマリヤの一節を読ませるだけで説明は加えない。十日ほどして、三浦君から、姉の律子と結婚することにしたと手紙が来る。語り手は、結婚の問題でも三浦君は極度の近視眼ではないかと義憤を覚え、読者に問いかける。
登場人物
- 私 語り手の作家
- 三浦憲治 甲府出身の大学生。徴兵検査は丙種
- 律子 下吉田の旅館の姉。しっかり者
- 貞子 律子の妹。にぎやかで屈託がない
冒頭部(原文より)
大学生、三浦憲治君は、ことしの十二月に大学を卒業し、卒業と同時に故郷へ帰り、徴兵検査を受けた。極度の近視眼のため、丙種でした、恥ずかしい気がします、と私の家へ遊びに来て報告した。 「田舎の中学校の先生をします。結婚するかも知れません。」 「もう、きまっているのか。」 「ええ。中学校のほうは、きまっているのです。」 「結婚のほうは、自信無しか。極度の近視眼は結婚のほうにも差支えるか。」 「まさか。」三浦君は苦笑して、次のような羨やむべき艶聞を語った。艶聞というものは、語るほうは楽しそうだが、聞くほうは、それほど楽しくないものである。私も我慢して聞いたのだから、読者も、しばらく我慢して聞いてやって下さい。 どっちにしたらいいか、迷っているというのである。姉と妹、一長一短で、どうも決心がつきません、というのだから贅沢な話だ。
「律子と貞子」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
けれども、それから十日ほど経って、三浦君から、姉の律子と結婚する事にきめました、という実に案外な手紙が来た。なんという事だ。私は、義憤に似たものを感じた。三浦君は、結婚の問題に於いても、やっぱり極度の近視眼なのではあるまいか。読者は如何に思うや。
「律子と貞子」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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